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スペシャル対談精子と卵子の「老化」には、正しい情報を味方に 岡田 弘(泌尿器科医) ×河合 蘭(ジャーナリスト)

精子力が高いうちに妊活を。男性の意識は変化していくのか?

河合 男性も、一部の人とはいえ女性同様に「35歳が境目」となってきたら、これは男性の間に「早く子どもを持とう」という意識革命が起きるかもしれません。
35歳という年齢は、男性は「そんなに早いのか!」とも思うかもしれませんね。35歳では、女性もまだ産んでいない人が多いですけれど、男性では、もう、ごくふつうのことでしょう。日本では今、国勢調査によると30代前半の男性は約半数が未婚なんですよ。出産年齢の全国平均も、男性は女性より約2歳高くて33歳くらい。これは、都市部ではもっと高いはずです。


岡田 結婚年齢の地域差は大きいですね。都心を中心とした僕の患者さんの初診時の年齢は、36〜37歳くらい。すると結婚は35歳くらいでしょう。人によっては、すでに妊娠しにくくなっている可能性があります。


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河合 女性の不妊治療では卵巣にどれくらいの卵子が残っているかを調べるAMH(抗ミュラー管ホルモン)検査が一般的になってきました。これと同じように将来は「男性は精子機能検査を」となるのでしょうか。


岡田 その前に、まずは精液検査を。血液検査と同じような感覚で、男性には気軽に精液検査を受けて欲しいですね。自分自身の状況を早く知ることは、治療を含めた人生の選択肢を増やすことでもある。


河合 人生の選択肢とは具体的にどういうことですか?


岡田 どのような治療法があるかもそうですが、最も大切なのは、子どもをつくることではなく、育てることでしょう。例えば、不妊治療に何年もトライして、40歳を超えてから養子を考えるのでは遅すぎるし、治療に早々に見切りをつけて子どものいない人生を選ぶ道もある。


河合 殖医療が発展したから、他の選択が見えにくくなり、治療をやめるタイミングも先延ばしになっているかもしれませんね。


岡田 法整備が遅れていることなど、日本特有の背景もあります。また、不妊治療を行うART施設を外部評価するシステムがないことも問題。アメリカの半分の人口の日本で、ART施設は全国に500以上あり、ICSIの施行回数は世界の半分を占めます。もちろん、ほとんどの施設は患者さんの妊娠・出産のために尽力していますが、患者さん自身が施設を選択するための客観性の高い目安や基準がないのです。


河合 現在でもそれぞれの施設で体外受精の成績などのデータを公開していますが、岡田先生は、それはどう受け止めればいいとお考えですか?


岡田 施設の自前のデータは、何らかのフィルターがかかっていると考えたほうがいい。これは、日本でもアメリカでも同じです。そのデータを見極めるための基準となる指標が必要なのです。


■ 用語解説

・AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査
女性の卵巣予備能を調べる検査。卵巣にどれくらい卵子が残っているかの指標となる。不妊治療では、治療方針の参考にするために検査が広がっている。

・ART(Assisted Reproductive Technology/生殖補助技術)
体外受精、顕微授精などの高度な生殖医療のこと。2011年、日本でARTによって生まれた子どもは32,426人、この年に生まれた子ども のうち、約32人に1人がARTで誕生したことになる。 ※平成23年(2011)人口動態統計、日産婦誌65巻9号より

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