河合 私が『男を維持する「精子力」』の中で驚いたのは、産婦人科から紹介されて岡田先生の外来を受診された人のうち、再検査をしたら「3割の方は問題がなかった」とありますね。
岡田 ええ、「乏精子症」と診断されて来られた方の約3割は、精液検査をすると正常範囲です。
また、無精子症と診断された方でも、約3割で精子が見つかます。それと、精液検査の結果は、精液を採取する環境により大きく変化します。この数値を見てください。(パソコンを見ながら)右は、朝早く家で仕事に出かける前にご主人が出した精液を、奥様がもって来てこれを検査した時の精子濃度で、左は仕事が終わった夜か仕事のない休日の午後に、院内で採精した同じ人の精子濃度です。同じ人の数値とは思えないでしょう?
河合 え?! 同じ人でも、精子の数に3倍も開きがあるのですか?
岡田 ええ、射精する状況や検査の方法によって、数値に差が出ます。
この方の場合、低い数値で治療方針を決めるなら、タイミング法や人工授精というステップを踏まずに、いきなり顕微授精ICSIをすすめられるでしょう。しかし、高いほうの数値で見ると、ICSIは本来必要のない治療といえます。もちろん、ご本人の希望にもよりますが。
河合 これは、つまりタイミング法や人工授精での妊娠を目指せる状況なのにICSIになるご夫婦もいらっしゃるということですか。
岡田 女性側に妊娠を妨げる問題がなく、精子の機能がよければ、ICSIをすれば妊娠する可能性が高い。中には、それで治療成績を上げているクリニックがあるかもしれません。
河合 海外での精液検査は、どうなのでしょう?
岡田 必ず何回か調べます。
河合 日本では、ちょっと極端な例ですが、女性の年齢が高くなると、当たり前のように「治療はICSIが第一選択」という施設もあるようです。
岡田 「35歳を超えると卵子の質が悪くなっていくからICSIを」という発想ですね。でも、卵子だけではなく、精子も老化する。精液検査や精子の老化の認識は、日本の不妊治療で改善しなくてはいけない点です。
■ 用語解説
・ICSI(Intracytoplasmic Sperm Injection/卵細胞質内精子注入法)
1つの精子を選んで卵子に直接注入し、授精させる方法。現在、顕微授精といえばこの方法をさす。受精卵ができれば、女性の子宮に戻して妊娠を待つ。精子の数が少ない、運動率が悪いなどの男性不妊に有効な治療法。