河合 先生は「あるタイプの人は35歳で精子力が落ちてくる」という発表もされていて、これもご著書を読んで驚いたことのひとつです。どうして、そこに目を向けられたのでしょう?
岡田 染色体異常であるクラインフェルター症候群の男性の無精子症治療がきっかけです。彼らにMD-TESEを行うと、20代では約80%で精子が採取できるものの、35歳以上ではその割合が低下、45歳ではほぼ採取できなくなります。 では、一般男性の場合はどうなのだろう?と考え、精子機能を探る「精子機能検査」を始めたのです。
河合 動物の卵子を使った検査が行われていたので、びっくりしました。
岡田 マウスの卵子にヒトの精子を顕微授精(ICSI)で注入して、精子が卵の中に入って活性化するかどうかを観察します。できるだけ多くの同じ条件の卵子にICSIを行うことで、受精する確率がわかります。
河合 マウスの卵に人間の精子が入ると、種が違っても受精するのが不思議です。
岡田 ええ、これは哺乳類の初期の発生における、種を超えたメカニズムです。そのあと成長は止まり、ネズミ人間誕生!なんてことはありませんから、ご安心ください。
河合 少々ドキッとしました(笑)。そして研究の結果は・・・。
岡田 すでに子どものいる男性では、30代になっても卵活性化率はさほど変わりません。しかし、不妊男性で受診された人では35歳以降に卵活性化率が落ちる人が多い。
河合 「精子力」が落ちてくるのですね。
岡田 受精させる機能、すなわち「妊娠させる力」が落ちるということは、「精子の質が低下する」といえますね。通常の精液検査では数値に変動がなく、見かけでは全くわかりません。
河合 女性が35歳を過ぎると妊娠しにくくなるのと同じように、一部の男性も35歳以降、妊娠させにくくなるのですね。すると、カップルの年齢によっては、子どもができないのは男性側の老化が原因かも知れないということも・・・。
岡田 男性が35歳以上で、女性よりも年上であれば、十分に考えられます。
河合 やはり、そうですか。『卵子老化の真実』でも精子の老化について少し触れているのですが、その部分が印象に残った女性読者から「婚活の相手は若い男性にした方がいいということですね」と言われたことがあります。
岡田 その通りです! 僕が診察を担当する都心の不妊クリニックでカップルの年齢を調べたところ、姉さん女房率が非常に高かった。
河合 私の取材でも、高齢出産の女性のパートナーは年下の男性が目立ちました。もちろん年上の男性との間に授かるアラフォー女性はたくさんいましたけれど、世間一般から比べると比率が違うみたいです。
岡田 種の保存のために、女性は自然に若い男性を選んでいるのかもしれません。
河合 まさか年齢で夫を選ぶわけにはいきませんが、無意識の戦略ということはありえそうです。
岡田 精子の老化について発表したところ、多くの人から「このデータは女性の味方ですね」と言われました。今まで「卵子の老化が不妊の原因だ」と女性が一方的に悪者にされてきたからです。
河合 今後は、精子の老化も踏まえたうえで子どもを持つ時期を考える必要がありそうですね。
岡田 ええ、それによって治療の選択肢も変わってきます。
■ 用語解説
・精子機能検査(MOAT検査=Mouse Oocyte Activation Test)
精子の妊娠させる力を調べる検査。従来の精液検査では精子の数(濃度)や運動率など、見た目しかわからなかったが、この検査では精子の機能が判明する。