男性不妊の有効な治療法として、顕微授精は広く行われている。
ひとつの精子を選んで卵子に注入する
顕微授精とは、顕微鏡で観察して形が良くて運動性に優れた1つの精子を選び、それを顕微鏡を見ながら直接卵子に注入して授精させる方法。
精子は細いガラス管に吸引し、そのガラス管を卵子に刺して、精子を注入する。この後、受精した胚(受精卵)を子宮に戻して、妊娠を待つ。現在行われているのは卵細胞質内精子注入法(ICSI=Intracytoplasmic sperm injection)という方法で、顕微授精といえば、一般的にこのICSIを指す。
体外受精で受精しなかった場合や、精子の数が少ない男性不妊に有効な治療法としてスタートしたが、現在は原因不明(男女とも)など、治療対象が拡大している。
ひとつの精子を選んで卵子に注入する
顕微授精が行われる前は、男性不妊の治療は人工授精がメインであり、精子の数が少ない・運動性が悪い・形が悪いといったOAT症候群の患者の累積妊娠率(最終的に妊娠する確率)は12%程度だった。また、体外受精が登場しても、男性不妊患者カップルの妊娠率は約16%にとどまっていた。
しかし、1995年以降にICSIがOAT患者に応用されると、妊娠率が急激に向上した。現在は、顕微授精がOAT症候群を中心とした男性不妊の最も有効な治療と考えられる。
2010年に顕微授精で生まれた子どもの数は5277人、これまでの累積出生児数は7万4631人に上る。また、2010年に生まれた子どものうち、200人に1人(0.5%)が顕微授精によって誕生した計算になる(*1)。
体外受精・顕微授精の妊娠率は、女性の年齢や治療法などによっても異なるが、だいたい20〜30%程度。日本産科婦人科学会では「ARTデータ集」を公開している。
(*1)齊籐英和(委員長)平成23年度倫理委委員会 登録・調査小委員会報告(2010年分の体外受精・胚移植等の臨床実施成績および2012年7月における登録施設名)日産婦誌. 2012, 64: 2110-2140.
日本産科婦人科学会のARTデータ集、「人口動態統計」(平成22年)。