最新マニュアルでの検査を
日本の医療施設での精液検査は、基本的にはWHO(世界保健機関)が推奨する検査方法を用いている。
しかし、この精液検査マニュアルは2010年に改訂されたため、まだこの方法をとっていない医療施設もあるのが現状。
WHOの精液検査マニュアルでは、無精子症の診断のためには精液全量を、遠心分離器をかけて試験管の底にたまった細胞成分すべてを、顕微鏡で調べることになっている。しかし、実際には一部の精液だけを顕微鏡で覗いて検査を終えていることが少なくない。そのとき精子が見つからないと「無精子症」と診断(誤診) されてしまう。しかし、たまたまその中にいなかっただけで、残りの精液中に精子が存在したかもしれない。
誤診を防ぐためにも、WHOのマニュアルのように全量を遠心分離した上で顕微鏡の検査が必要である。
(追記:2021年8月5日 WHO精液検査マニュアルが2021年7月に第6版に改訂された)
精液を遠心分離器にかけて、精子を含む細胞成分を下に集め(沈査)、それを検査する。
精液所見がよくない場合は、精液の全量を顕微鏡で調べる必要がある。
精液検査の結果の考え方
精液検査マニュアルには、精液所見(精液検査の結果)の基準値が記載されている。多くの医療施設では、この数値を参考にして治療方針を決定している。
精液検査の標準値(WHOラボマニュアル第6版に準拠している場合)
精液 | 1.4ml以上 |
pH | 7.2以上 |
精子濃度 | 1ml中に1600万以上 |
総精子数 | 1ml中に3900万以上 ※3900万未満の場合は乏精子症 |
精子運動率 | 40%以上 ※40%未満の場合は精子無力症 |
前進運動率 | 32%以上 |
正常形態精子率 | 4%以上 ※4%未満の場合は奇形精子症 |
WHO精液検査マニュアルの解説
マニュアルの付録A1.1(260ページ)では、精液検査の基準値について、以下のように記されている。
「パートナーが12カ月以内に妊娠した男性を正常精液所見と定義し、3大陸8カ国から400〜1900人のサンプルを得た。精液に関しては片側基準範囲が適していると考えられるため、その5パーセンタイルを下限値とした」
これは、簡単にいえば、「妊娠を希望してから1年以内に妊娠した男性パートナーの精液所見を、状態のいいほうから順番に並べて、下から数えて5%目にあたる値を基準値とした」ということ。
そのため、ポイントとして、以下のことを念頭に置く必要があるだろう。
・基準値を下回るからといって、妊娠が望めないわけではない。
・基準値を上回っているからといって、必ずしも妊娠が保証されるわけではない。
数字を突きつけられると、それが絶対的なものだと受け取りがちだが、WHOの基準値は多くの精液検査から参考として出されたもので、あくまでも“目安”と考えるべきだろう。