Microdissection TESE (MD-TESE:顕微鏡下精巣精子採取術)について説明する時によく尋ねられる質問です。
「精巣精子が採取できたとして、これはすぐに使用する方が良いのですか?それとも凍結保存して使っても良いのですか?」
閉塞性無精子症の場合は、TESEで精子採取が100%可能ですから、採取できた精子をすぐに使用する顕微授精(fresh TESE-ICSI)で良いと考えられます。
なぜならば、採取直後からほぼ全ての症例で、運動性のある精巣精子を探し出すことが出来るので、これを確実に顕微授精(ICSI)に用いることが出来るからです。

これに対して、精子形成障害による無精子症(azoospermia due to spermatogenic dysfunction : ASD; 以前には非閉塞性無精子症: nonobstructed azoospermia; NOAと呼ばれていた)の場合はどうでしょうか。精巣精子が採取できる確率は40-50%です。裏返して言えば成熟精子は50%以上で採取できないことになります。
それなら、MD-TESEに合わせて採卵している場合は、その卵は使用する事が出来なくなり、卵は破棄される事になります。そうでなければ、授精率・妊娠率ともに極端に低い未熟精子ないしは円形精子細胞などを、いわば無理矢理顕微授精することになるのです。
採卵という女性の身体に大きな侵襲のある処置が、無駄になるのは出来るだけ避けなければなりません。そこで、精巣精子が採取出来た場合はこれを凍結保存すれば、将来の顕微授精に備えることが出来ます。つまり、顕微授精に使用出来る精子の確保を確認してから、採卵にかかれば良いので、無駄な採卵をなくすことが可能になるわけです。

さて、この凍結保存精巣精子を用いた顕微授精と新鮮精巣精子を用いた顕微授精に、受精率・妊娠率に差があるのでしょうか?
これに対する回答はこれまでに、少数の報告例でのみなされてきました。従って信頼性(エビデンスレベル)が低いかもしれなかったのです。
最近この論争に現時点で結論を出す論文が出ました。(Ohlander S, et al. Fertil Steril 101: 344-349, 2014)
これは、メタアナリシスと言う統計分析法を用いています。具体的には、これまでに報告されている論文の内で、ある基準に合致するもののみ(エビデンスレベルの高いものを中心に)を集めて、解析しなおしたものです。
これまでの224論文を詳しく調べて、基準に合格した11論文について解析しています。
その結果は、ASDの場合は新鮮精巣精子を用いても、凍結保存精巣精子を用いても、妊娠率と受精率に差が無いという結果でした。(画像をクリックして拡大・Fig. 1, 2)
FIg 1 2014.9.15
Fig1_20140915
Fig. 2 2014.9.15
Fig2_20140915

すると、女性に対する優しさからは、凍結保存精巣精子を用いた方が良いことになりますね。
我々の施設では、現在この論文の追試を開始するところです。
結果が出ましたら、再度ご報告しましょう。