精液検査で精子の質はわかりますか?

精液検査(一般精液検査・ルーチーン精液検査)では、精液量(精液の容量)・精子運動率(運動している精子の割合)・正常形態精子率(染色して精子の頭部や尾部を顕微鏡で調べた、正常な形をしている精子の割合)が測定されます。
また、精子の運動を機械で解析して、精子の運動の直進性(まっすぐ進む精子の割合)や精子速度(精子が進み速度)を計測する場合もあります。
精液量が少ないと、精子濃度が少ないと、正常な精子の形が少ないと、自然妊娠が起こりにくいことが知られています。そこで、WHOは大規模調査をして基準値(目安の値)を提示しました(2010年)。

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しかし、不妊カップルが増加している現在では、不妊治療法を選択する上で参考になる、もっと詳しい精子の「質」の検査法が求められています。
この代表が精子のDNA断片化率(DNA Fragmentation Index: DFI)です。
精子の究極の目的は、卵に受精して男性パートナーの遺伝情報であるDNAを運び込む事です。この、精子頭部にDNAは2本の鎖がらせん構造になって格納されています。2本の内の1本に傷がつくと遺伝情報は正確に伝えることが出来なくなってしまいます。
2014年に出されたレビューでも、DFIの高いパートナーの精子を用いた精子では、IVF/ICSI(体外受精)で妊娠率は低下して、流産率が上昇する事が明らかになりました(表1,2:画像をクリックすると拡大表示されます)。

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一般精液検査のみではなく、もう一段進んだ精子の質の検査が重要だという事です。
このDNAに傷がついているかいないか(DNA断片化率)を調べる方法が、精子クロマチン構造試験(Sperm Chromatin Structure Assay: SCSA)と呼ばれている検査法です。

我々の施設(獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンター)でも、たくさんの不妊症に悩むカップルで測定しています。原因不明不妊と言われている患者さんカップルのご相談をお待ちしています。

男性不妊専門医の局在

2017.07.08 | お知らせ, 新知識

生殖医療専門医(泌尿器科)の数が、51人ととても少ない事は、前回のブログでお示ししました。
この事以上に、問題になっているのは、その局在です。
図を診ていただくと、一目瞭然ですが、こんなに偏っています。
専門医が1人も存在しない県どころか、地域があります。
この、偏在を解消すべく、獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンターでは、広く研修希望医を集めて育成に努めています。

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希少価値の男性不妊専門医

2017.07.08 | 新知識

生殖医療専門医について
一般社団法人日本生殖医学会が認定している生殖医療専門医(名誉専門医を含む)は合計649名存在しています。
この中で、主に男性因子の不妊患者(男性不妊患者)を扱う泌尿器科医はわずか51名(7.9%)に過ぎません。
では、なぜこれほど少ないのでしょうか?
これには、様々な事が考えられています。
① 患者数が少ない。
② 男性不妊を教えてくれる施設が少ない。
③ 男性不妊に関心が無い。
①は当てはまりません。不妊症のカップルの約半数に男性因子があるのですから。
②は大きな原因となっています。保健医療を主に行っている大学病院で、不妊治療(自費の部分が多い)も行っている施設は極限られています。このために、初期教育の場である大学病院で、実際の患者に触れる事が出来る施設が少ないため、教育が出来ていないのが現状です。
③実際の患者さんを、目の前で診ることが出来る環境がないと、疾患のイメージがつかみにくく、興味を持つ医師が少なくなってしまいます。
教科書のみから得る知識だけでは、臨床的な興味はわきにくいものです。
これらを考え合わせて、我々の施設(獨協医科大学越谷病院 リプロダクションセンター)では、男性不妊のトレーニングが出来る施設として、優秀な医師の育成に努めています。

「どの泌尿器科の先生に相談したら良いのですか?」という質問をよく受けます。
生殖医学会のホームページには、専門医の一覧がありますが、見にくいので泌尿器科医のみを抽出しましたので、参考にしてください。データは2017年4月1日現在ものです。

表) 生殖医療専門医(泌尿器科)※表をクリックすると拡大表示されます。
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男児の妊孕性温存に関する情報です

精子形成の始まっていない男児が、悪性腫瘍に罹り、手術・抗がん剤治療・放射線治療を受けた場合の、将来の子どもを授かる見込みはどうなっているのでしょう?

精子形成がないのですから、もちろん治療開始前に精子凍結保存をすることは出来ません。
これらの患児が、治療の結果治癒した場合、子どもを授かる事がどのくらい出来ているのかを調べた研究は、国内にはありません。
St Jude Children’s Research Hospital(米国テネシー州メンフィス)からの報告によれば、診断時年齢が若年であるほど、将来に児を持てる可能性は低くなり、治療法別では手術・化学療法・放射線治療それぞれの単独療法よりも、化学療法と放射線治療の併用で、妊孕性が低下する事が示されています(表)。
国内でも、同様の研究・調査が行われると良いでしょうね。
次回は、精子形成前の男児の妊孕性温存の最前線について、解説します。

表 2017.7.7
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