~体外受精するときに、精子がなかったらどうしよう~

精子濃度の極端に低い男性からのお悩み相談
~体外受精するときに、精子がなかったらどうしよう~
不妊症の治療はカップルで行う事が基本です。
ご主人の精液検査を3回行いましたが、2回はごく僅かの運動精子が存在しましたが、1回は遠心分離して何度も見直しましたが、精子を見つけることが出来ない無精子の状態でした。
このように、時には僅かながら射精液に精子が存在するが、時には精子がいないこともある場合を、cryptozoosperimia (隠れ精子症、クリプト精子症)と言っています。
このような場合に、顕微授精(ICSI)が選択されるわけですが、顕微授精の当日に射精液を調べて精子が存在しない場合は、受精に用いる精子がないために、治療がキャンセルされてしまいます。通常、採卵に備えてホルンによる刺激療法を受けていますので、女性(奥様)の肉体的・精神的・経済的負担は大きいものがあります。
そこで、「顕微授精当日に用いるべき精子がない」という事態を避けるために、あらかじめ精子を凍結保存しておくことが勧められています。(精子のバックアップ凍結保存と呼ばれています)。
しかし、このバックアップ精子凍結保存は万能ではないのです!
「確かに、凍結保存する時には精子は存在したのですが、これを融解して精子を探し出そうとしても、見つからない」と言う事態が起こりうるのです。
極少数の精子を凍結保存している場合に、実際経験される事なのです。
理由は、以下の様なことが考えられます。
① そもそも、凍結保存の時に、うまく精子が回収出来ずに1つの精子も凍結保存されていない。
② 凍結保存容器の壁に付着してしまい、回収出来ない。
③ 融解過程で、精子がこわれてしまう。
同じように、極少ない精子を凍結保存しなければならない場合が、非閉塞性無精子症で顕微鏡手術により精巣精子を採取した(MD-TESE, micro TESE)場合に、極少数の精子しか回収出来ないため、これを凍結保存して顕微授精に用いるとなると、上述したのと同じ事態が起こる可能があります。
バックアップ精子凍結保存が万能でないとは?
どの施設でも経験していることですが、実際にどのくらいの頻度で、「顕微授精の時にバックアップ凍結保存されているはずの精子が回収出来ない」という事態が起こっておるのかを調べた研究はこれまでありませんでした。
最新の研究成果が、米国の生殖医学会雑誌Fertility & Sterilityに掲載されました。
(Kathrins M, et al. Fertil Steril. 2017; 107: 1300-1304)
この研究で、射精液の精子にしろ、精巣精子にしろ、極少ない精子数をバックアップ凍結保存して顕微授精時に融解して精子回収を試みた、結果はどうだったのでしょうか?
臨床上、何となく数%ぐらい有るかな?と思っているように、クリプト精子症や総精子数が10万以下の場合、射精液中の精子を凍結保存して、これを融解して精子を探して、精子が見つからないケースが、クリプト精子症で8.5%・総精子数10万以下の場合に2.8%でおこります(図1)。

Table1

それでは、精子の由来によって差があるのでしょうか?
精子を精液から採取した時には、クリプト精子症や総精子数が10万以下の場合は7.1%で凍結保存―融解後に精子を見つけることが出来ませんでした。非閉塞性無精子症でTESEを行ない精巣から精子を回収し、凍結保存―融解した時には、クリプト精子症や総精子数が10万以下の場合は、5.8%で精子を見つけることが出来ませんでした(図2)。

Table2

やはり、数%で凍結保存後に融解した時に、精子が見つからない最悪の事態が起こるのです。
そこで、このような、事態を避けるために、非常に少ない精子(例えば1-9精子)でも凍結保存―融解後に精子が確実に回収出来る方法を、獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンターでは、確立しています。

この内容は、論文掲載されましたら、再度報告いたしましょう。

子どものいる人生と子どものない人生-寿命に関係するの?

2017.08.25 | 新知識, 未分類

子どものいる人と、子どものいない人の寿命に差があるのでしょうか?
カロリンスカ研究所からの報告が今年Journal of Epidemiology and Community Health(2017; 71: 424-430)誌に掲載されました。
1911年から1925年に生まれて、60歳時にスエーデンに居住していた男性704481人女性725290人を追跡調査しました。統計学で用いられているperson-yearsで表現すると男性で1410万person-years、女性で1760万person-yearsのデータが蓄積され解析されました。そして、様々な因子が、寿命に影響するため、教育レベルを考慮した解析がなされました。
男性の60歳時点での期待余命は、子どものいる場合20.2年・子どものいない場合18.4年でした。女性の60歳時点での期待余命は、子どものいる場合24.6年・子どものいない場合23.1年でした。
死亡リスクは、どの年齢でも男性の方が女性より高く、男女ともに子どものない場合の方が高い傾向にありました。(図1)

Figure1

この傾向は、結婚していない男性で、子どもがない場合に最も顕著に死亡リスクが高くなることが判りました。しかし、女性では、男性よりこの差はずっと少なくなります。
この原因を探るために、子どものいる人で子どもの近く(50Km以内)に住んでいる人と子どもから離れて(51Km以上)住んでいる人に分けて、それぞれを子どものない人の死亡リスクを比較しました。すると、男女ともに子どもの近くに住んでいる方が、死亡リスクが少なくなることが判りました。(図2)

Figure2

人はファミリーを形成して、そのファミリーは近くにあるようにするのが、良いようです。
還暦になると、親元へ帰る同僚が多くみられると思います。これは、自然の摂理にかなった親孝行かも知れません。

朝日新聞に取材記事が掲載されました

2016.04.27 | 未分類

■2016年4月27日 朝日新聞朝刊

本日の朝日新聞朝刊の医療ページ「1分で分かる妊娠と出産[4]」にて、泌尿器科と産婦人科が連携した獨協医科大学リプロダクションセンターについての取材記事が掲載されました。特長として、男性へのより詳しく原因を調べられること、男女どちらの治療を優先するか検討しやすいことが挙げられています。

asahishinbun_20160427

*事務局

中学生以下では、がん治療前に精子凍結保存は出来ないのでしょうか?

2016.03.07 | 新知識, 未分類

精通現象(夢精:眠っている間に性的な夢を見て射精してしまう現象や、マスターベーションの経験)が無いために、がん治療前の精子凍結保存は出来るのかどうかという質問をたびたび受けます。
答えは、YESです。
思春期が来る途中であれば、精巣(睾丸)内では射精はまだ無くても精子形成が始まっていることがあるのです。
ですから、あきらめないでまず相談です。
最近。こんな患者さんがおられました。
14歳 男子(A君)
急性骨髄性白血病に対して化学療法受け、一時的は治癒判定を受けるも、再発したためさらに強い抗がん剤治療の予定が示され、同時に同種造血細胞移植(骨髄移植や臍帯血移植)を行うため、全身放射線照射予定され、治療後の無精子症の確立が高いことが判ったため、紹介受診されました。
しかし、A君は今までマスターベーションをしたこともないし、夢精も経験していないとの事でした。
お父様を含めて(このときは父親の役割は大切です)、精子凍結保存法について話し合いました。
1.マスターベーション教育をする
2.精巣精子採取(TESE)を試みる
2つのオプションを示した結果、TESEを選択されました。
そこで、麻酔下の援助の元に緊急TESE(microdissection TESE; MD-TESE, micro TESE)を行い、顕微授精10回分ほどの精巣精子を凍結保存しました。普通のTESEでは精子回収が出来なかったためMD-TESEに切り替わりました。(子供のトラウマを最小限にするために全身麻酔が望ましいです)
その結果、精巣精子を回収することに成功しました。
元々の病気(急性骨髄性白血病)の治療が優先されるのは当然ですが、治癒確立が極めて高いので、出来るだけその後の事も患者さん本人と両親を交えて話し合う必要があります。このような機会(場所)を獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンターでは提供できていると思います。
大切なことは、まず専門家への相談です。
獨協 リプロで検索してください。
獨協医科大学越谷病院・リプロダクションセンターのサイト

日刊ゲンダイにリプロダクションセンターが紹介されました

2015.11.17 | 未分類

■2015年11月18日(17日発行)日刊ゲンダイ「有名病院 この診療科のイチ押し治療」

本日の日刊ゲンダイの「有名病院 この診療科のイチ押し治療」に獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンターが紹介されました。

これまで泌尿器科が男性不妊の治療に力を入れて取り組んできたが、今年7月、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療を専門に行うリプロダクションセンターが開設されたことが紹介されています。

一番の特長は、患者さんご夫婦、男性不妊の担当医、女性不妊の担当医の4者が一度に同じテーブルに着いて治療が進められ、その場を大学病院につくることで、不妊治療から出産、新生児の管理まで一貫して同じ病院内で診ることができること。さらに、不妊に関連するすべての治療や検査に対応できる施設として、遺伝カウンセリングセンターが全面的にバックアップし、胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断を専門に行うことや糖尿病や脊髄損傷など持病が不妊症と関連している場合、他科と連繋した診療が行えることも紹介されています。

NIKKAN GENDAI_20151117

*事務局

「どんなものを食べると精液検査に悪い影響があるのですか?」その1

これは、不妊に(特に男性不妊に)悩むカップルからよく尋ねられる質問です。
特に、魚がよいのか。肉がよいのか。などなどです。
これに対する答えは十分なデータがありません。
しかし、最近ハーバード大学から興味深い報告がなされました。
Processed meat intake is unfavorably and fish intake favorably associated with semen quality indicators among men attending a fertility clinic.
Afeiche MC,et al. J Nutr. 2014,144:1091.

彼らは、Massachusetts General Hospital Fertility Centerを受診した、男性不妊患者155人を対象にして、食事と精液検査所見を比較しました。
この中で、加工した赤身の肉・加工しない赤身の肉・赤身の魚・家禽肉・白身の魚について詳細な検討を行っています。
それぞれはどんな肉を指すかと言いますと、つぎのようになります。
加工した赤身の肉(processed red meat):ハンバーガーのパテ・ホットドッグ・ベーコン・サラミやボローニャソーセージ
加工しない赤身の肉(unprocessed red meat):牛肉・豚肉・ラム・ハムなどで、サンドウィッチや副菜や主菜として食べたもの
家禽肉(poultry):チキンや七面鳥などで、主菜やサンドウィッチとして食べたもの
内臓肉(organ meat);牛・豚・チキン・七面鳥の肝臓
赤身の魚(dark meat fish):マグロ・サケ
白身の魚(white meat fish):鯛・鱈
甲殻類や貝(shellfish):エビ・ホタテ

まず、肉食と摂取される栄養素のうちで、脂質とタンパク質に注目して分析しました。(画像をクリックして拡大・Table 1)
Table1
table1

すると、肉の摂取量の多い人は、総摂取カロリーが高い傾向がありました。
さらに、飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸の割合が高い傾向がありました。しかし、多価不飽和脂肪酸の割合は肉の摂取量の影響を受けていませんでした。
トランス脂肪酸・ω-3脂肪酸・総エネルギー摂取量に占める動物性脂肪やタンパク質の割合(特に動物性タンパク質の割合)が有意に高い傾向がありました。
さらに、著者たちは食生活を2つに分類しています。
Prudent pattern:野菜・果物、全穀物、鶏肉、魚をベースにした良識ある賢明な食生活パターン
Western pattern :赤身肉や加工肉、飽和脂肪、糖分を多く摂る欧米型食生活パターン
すると、肉の摂取量の多い人は2つの食生活のパターンともスコアが高い傾向にあったのですが、よりWestern patternが強くなる傾向がありました。

次に、肉食と精液所見の関係を調査しました。(画像をクリックして拡大・Table 2)
Table2
table2

すると、肉の総摂取量は影響を与えませんでしたが。赤身の加工肉の摂取が増えるほど正常形態精子率が低下しました。
加工していない、赤身の肉の摂取量は精液所見に影響を与えませんでした。
内臓肉を食べる人の方が、食べない人より正常形態精子率が有意に高い事が分かりました。家禽類の肉の摂取量は精液所見に影響を与えませんでした。

さらに、魚肉についても解析しています。(画像をクリックして拡大・Fig. 1)

Fig.1
fig1

1週間に魚を食べる回数が多くなるほど、総精子数・精子濃度・精子運動率・正常形態精子率はよくなる傾向にある事が分かりました。

魚肉の種類についても調査しています。(画像をクリックして拡大・Table 3)
Table3
table3
赤身の魚肉の摂取量が多いほど、総精子数・正常形態精子率は有意に高いことが分かりました。また、白身の魚肉の摂取量が多いほど、正常形態精子率が高いことも分かりました。しかし、甲殻類の摂取は精液所見に影響がありませんでした。

この論文からは、肉食の場合は、摂取量が増えるほど摂取される脂質・タンパク質の種類が偏る傾向がありましたが、総摂取量と精液検査の関連は明らかではありませんでした。赤身の加工肉は避けて、少しは内臓肉を食べ、出来れば魚肉の摂取を増やした方が、精液所見にはよい方に作用する可能性があると考えられます。
しかし注意しなければならないのは、これは横断的疫学調査であり、食生活を変えれば精液所見がどのように変化をするかを見た研究(介入研究といいます)ではない点です。
今後の、研究の進歩が待たれるところです。

ここで、もう一つ注意しなければいけないのは、参加者の大多数(83%)が白人のアメリカ人であると言うことです。日本人は、世界に冠たる雑食人種です。
日本人のデータはありませんので、現在我々が調査を進めています。
後3ヶ月ほどで調査が終わりますので、半年後ぐらいにはその成果をお見せできると思います。ご期待ください。

「早漏って多いのですか?」

友人からこんな情報が寄せられました。

『岡田、現在のAmazonアダルトDVDの売上ランキングによれば、10位内に2本の早漏に対する対策DVDがランクインしているぞ!』

男性不妊の相談では、射精障害に関しては圧倒的に膣内射精障害が多いのですが、早漏で悩んでいる患者さんが、私たちが把握できているよりもっと多いのかも知れません。

そこで、国内の文献を調査してみました。しかし、国内での大規模調査はなされていません。そこで、アジアの国について調べてみました。すると、韓国での調査が2010年に発表されていました。

2037人の20歳以上の男性についてインターネットを通じて調査したもので、射精を制御できたスコアを10段階で回答してもらい、さらに膣内にペニスを挿入してから射精までの時間(intravaginal ejaculatory latency time.:IELT)を尋ねています。Park HJ, e al. Asian J Androl. 2010 12:880-9.Prevalence of premature ejaculation in young and middle-aged men in Korea: a multicenter internet-based survey from the Korean Andrological Society.

20歳以上の各年齢毎に、6ポイント(10ポイントが満点)程度の射精の制御が可能であったと回答していて、年齢による変動はありませんでした。(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
Fig. 1
fig1

IELTは5-10分が38.6%と最多でした。(画像をクリックして拡大・Fig.2)
Fig2
fig2

さらに、自分が早漏であると自覚している人の割合は、驚くべき事に20歳台23.4%、30歳台24.6%、40歳台30.7%、50歳以上36.8%と年齢が上昇するにつれて高くなっています。(画像をクリックして拡大・Fig. 3)
Fig3
fig3

こんなにたくさんの男性が早漏であるのならば、早急に日本でのデータを作る必要があります。

早速、取りかかりますので、続報をお待ちください。

新潮45の6月号に取材記事が掲載されました

2014.05.21 | 未分類

■新潮社「新潮45」6月号

新潮45の6月号(5月17日発売)に取材記事「「男性不妊外来」へ行ってきた 45人しかいない治療のプロ」が掲載されています。

以下、記事のリードから。
—————————–
不妊の半数近くは男性が原因、しかし男性不妊専門の医師は泌尿器医の1%にも満たないのだ。52万人が悩む、治療の最先端。
—————————–
20140517

事務局
 

痛風治療薬と「精子力」

尿酸は、遺伝情報の根源物質である核酸を構成する主成分であるプリン体の最終代謝産物です。あらゆる食べ物に含まれているもので、毎日一定量が作られ、主に腎臓から排泄されます。この生産と排泄のバランスが崩れて、血中の尿酸量が増加して正常範囲を超えた状態を、高尿酸血症と呼んでいます。

尿酸は濃度が高くなると、腎臓や関節に析出して、腎障害・尿路結石・関節炎を引き起こします。

特に、足の親指の付け根の関節炎は、突然の激痛を伴うために、痛風(gout)と呼ばれています。現在、痛風と高尿酸血症はほぼ同義語として、用いられていることが多いようです。

 

痛風は、中年以降の病気と思っていませんか?

高尿酸血症の男性の割合は、20歳以上では25%以上であり年齢によりあまり変化していないのです(画像をクリックして拡大・Table 1)。
Table-2013.8.4
しかし、通院している人の割合(治療している人)は40歳以上で急増するために「中高年の病気」といった印象をもたれるのでしょう(画像をクリックして拡大・Table 2)。
Table 2013.8.4

しかし、よく見ると30-39歳でも5万人の通院患者がいることが判ります。これらの患者さんには、何らかの治療薬が処方されていることになります。

どのような薬が用いられるのでしょうか?

痛風発作時と痛みはないが、血中の尿酸値は高い高尿酸血症の治療に分けて考えましょう。

痛風発作の前兆期には、コルヒチン1錠(0.5mg)を用い、発作を抑え、痛風発作が頻発するときは、コルヒチン1日1錠を連日服用する「コルヒチンカバー」が有効であるとされています。発作の極期には非ステロイド抗炎症薬(NSAID)が有効です。

高尿酸血症の治療には、尿酸排泄促進薬のプロベネシド(ベネシッドR)・プコローム(パラミジンR)・ベンズプロマロン(ユリノームR等)と尿酸生成抑制薬のアロプリノール(ザイロリックR等)とフェブキソスタット(フェブリックR)があります。

さて、この痛風(高尿酸血症)の治療薬は、精子に悪影響を及ぼすのでしょうか?

尿酸排泄促進薬や尿酸生成抑制薬には、その作用機序から精子への影響はないものと考えられています。

コルヒチンに関しては、高濃度のコルヒチンは微小管の抑制作用により細胞分裂を阻害し,また胎盤通過性を有するため,精子に対する影響,不妊や妊娠中の胎児奇形の問題も懸念されると、添付文書上は警告されています。

さて、この根拠の文献を見てみますと、1972年にMerlinがコルヒチン0.6mg/日を3年間継続した無精子症患者で、コルヒチンを中止すると3ヶ月で精液所見が正常になり、再度コルヒチンを投与すると無精子になったという1例報告が端緒になっています。(Merlin, HE. Azoospermia caused by colchicine. A case report. Fertil. Steril. 23: 180-181, 1972)。これは、4年後にBremmerらの、健常ボランティア7人に対して、コルヒチンを4-6ヶ月投与したが、精液所見には変化が無かったとする論文で、否定されています。(Bremmer, WJ, et al. Colchicine and testicular function in men. N Engl. J.Med. 294: 1384-1385, 1976)

さらに、540人のコルヒチンを使用している若年者の精液検査で、精液所見の悪化はなかった事が報告されています。(Ye, TF. The efficacy of colchicine prophylaxis in articular gout. A reappraisal after 20 years. Arthritis Rheum. 12: 256-264, 1982)

これ以前に物議をかもした、コルヒチン治療を受けていた男性に生まれた2例の染色体異常児(trisomy)のLancetへの報告がありますが、これも因果関係は否定的です。(Ferreria, NR, et al. Trisomy after colchicine therapy. Lancet ii, 1304-1305, 1968)

もう少し最近の論文では、やはりコルヒチン治療を受けている2例の患者さんの精子の染色体構成を調べています(3 color FISH法で、精子のX染色体・Y染色体・18番染色体を染め分ける)。結果は、染色体数の異常の割合(aneuploidy)が一人の長期コルヒチン治療患者(後述するFMF患者)で妊孕性の確かめられた男性の精子(1.9%)よりも、高い(9.1%)ことが示されています。しかしながら、同じ施設でおこなった、精子濃度が低く運動率も低く正常形態精子の割合が低い患者さん(oligoasthenoteratozoospermia:OAT)の精子の染色体数の異常の頻度(7.4%)と比べれば、同程度であったと報告しています。つまり、これらの患者さんの精子に見られた染色体数の異常は、コルヒチンが作用したわけでは無く、精子形成の悪い患者さんに共通な現象であるということです。 (Kastrop P, et al. The effect of colchicine treatment on spermatozoa: a cytogenetic approach. J Assist Reprod. Genet. 16: 504-507, 1999)

それでは、このほかにコルヒチンが使われる病気があるのでしょうか?

家族性地中海熱とベーチェット病があります。

家族性地中海熱は、周期的に繰り返される発熱と、胸部、腹部の痛み、関節の疼痛と腫脹を特徴とする病気です。この病気は、地中海沿岸地域の中近東のユダヤ人、アラブ人、アルメニア人に多い病気ですが、日本人でも発症することが分かっています。

家族性地中海熱(Familial Mediterranean Fever: FMF)は周期性発熱、漿膜炎を主徴とする遺伝性自己炎症疾患です。日本では、2009年度の全国調査で、約300名の患者さんがいると推定されています。治療には、コルヒチンが有効で1錠(0.5mg)/dayを分2-1で開始して、無効な場合は、1日1.5mg/dayまで増量します。( 家族性地中海熱診療ガイドライン2011 暫定版)

この病気の場合は、発症年齢が生殖年齢と重なるために、コルヒチンの精子形成に対する作用が懸念されました。しかし、精巣の血管へのアミロイド沈着が精子形成障害の原因とされています。(Haimov-Kockam R, et al. The effect of colchicine treatment on sperm production and function: a review. Human Reprod. 13: 360-362, 1998)

ベーチェット病

ベーチェット病(Behcet’s disease)とは、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状の4つの症状を主症状とする慢性再発性の全身性炎症性疾患です。日本をはじめ、韓国、中国、中近東、地中海沿岸諸国によくみられ、シルクロード病ともいわれます。日本では北海道、東北に多く、北高南低の分布を示します。日本で治療中の患者さんは17000人以上です。男女とも20~40歳に多く、30歳前半にピークを示します。発作予防には、コルヒチン0.5-1.5mgが用いられますが、不十分な場合にはシクロスポリンを使用します。(画像をクリックして拡大・Table 3)
table-3-2013.8.4
table 3 2013.8.4

この病気の場合も、発症年齢が生殖年齢と重なるために、コルヒチンの精子形成に対する作用が懸念されました。しかし、ベーチェット病そのものによる血管炎や精巣上体炎が、精液所見の悪化に繋がっていると考えられています。(同上論文)

◎難病情報センターのホームページ「ベーチェット病」
◎厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患克服研究事業「ベーチェット病に関する調査研究」

結局は、高尿酸血症・痛風の治療薬は、「精子力」に影響しない。

しかし、その原因疾患によっては、「精子力」を低下させてしまう、と言う結論です。

熟年セックスの話題

最近、男性誌(一部女性誌を含む)で毎週のように特集が組まれている、熟年者の「性」の問題をご存じですか?

『60歳からのセックス』『まだまだセックス』『死ぬまでセックス』という文字が、雑誌の表紙に躍っています。

しかし、50歳以上の人は、本当はどう感じているのでしょうか?

配偶者の有無・自身やパートナーの健康状態・家庭内外の問題の有無が、セックスにとっての大きな要因である事は、容易に想像できますが、皆さんの場合はいかがですか?

これに対して、週刊朝日2013年7月26日号では、1000人対象に緊急アンケート実施 本当に必要なもの 女性の版数が「恋する男性とは、したくない」というタイトルで、特集記事を掲載しました。

また、日経BP社は相模ゴムとの共同調査で、現在のセックスパートナーの有無や1ヶ月の回数などを、14100人を対象にした調査結果を発表した。

2つの調査ともに、Web調査で行なわれています。これには、Web調査に協力できる人しか対象に含まれないと言う、調査対象に大きな偏り(セレクションバイアス)が存在するので、解釈するときに注意が必要です。

 

まず、週刊朝日の調査結果(画像をクリックして拡大)
table-1-2013.7.18table 1 2013.7.18
46.8%の女性が、現在「恋」をしている相手(夫を含む)とのセックスを望んでいません。これに対して、男性の場合は、45.6%の男性が、現在「恋」をしている相手(妻を含む)とのセックスを望んでいます。

このことは、2002年に出版された、『カラダと気持ち ミドルシニア版 40-70代セクシュアリティー10000人調査』日本性科学会・セクシュアリティー研究会 編著 三五館 での、調査結果とほぼ同じ結果といえます。

さらに、50歳からの恋愛にもっとも大切なものはなんですか?との問いに対して、男女とも「思いやり」「互いの健康」を挙げています。

この結果も、日本性科学会の調査と同様です(Fig.1)。
Fig.-1-2013.7.1803Fig. 1 2013.7.18

 

 

 

 

 

 

次に、日経BP社の調査を見てみましょう。

月間のセックスの回数は、50歳代で男性1.6回女性1.2回、60歳代で男性1.2回女性0.8回と報告しています(画像をクリックして拡大)。
Fig.-2-2013.7.18Fig. 2 2013.7.18
想像通り、加齢とともにセックスの回数は減少することがわかります。

 

 

 

この結果も、日本性科学会の調査結果と同様です(画像をクリックして拡大)
Fig.-3-2013.7.18Fig. 3 2013.7.18
一つ興味深いことは、両調査ともに男性の回答した回数が女性の回数よりも、若干高い数字である事です。男の見栄でしょうか?

さらに、既婚者のセックス回数が1.7回であるのに対して、未婚者かつ交際相手ありの人が4.1回、未婚者かつ交際相手なしかつセックス相手ありの人が2.9回と報告しています。

この結果、結婚している方がセックスの回数が少ないので、『結婚はセックスの墓場』というキャプションを付けて伝えています。

皆様、どのように感じられたでしょうか?

詳細は、以下のサイトをご覧ください。
「ニッポンのセックス」
「日経ウーマンオンライン(結婚はセックスの墓場?)」

今回紹介した、3つの調査に共通しているのは、熟年(シニア)世代のセックスは、行為そのものという即物的なものではなく、もっとプラトニックのものであると言うことです。

冒頭の週刊誌の扇動記事は、現実とは少し乖離したものと言えそうです。

PAGETOP