男性がん患者さんの妊孕性温存。 子どもを持つために知っておきたいこと

一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク」が運営している「再発転移がん治療情報“あきらめないがん治療”」というサイトに取材記事が掲載されました。
男性のがん患者の方で、がん治療を始める方、治療中の方、治療後の方の妊孕性の問題とその解決方法について、解説しています。
女性の妊孕性に関する情報は多いのですが、男性のものは大変少ないと感じています。
是非、参考にしてください。

https://www.akiramenai-gan.com/qol/easing/86749/

 

若い時にがんと診断された男性の結婚と子作り

近年、青年期以前にがんと診断されたが、その後の治療のおかげでがんは治り、普通の生活が送れるようになる患者さんが増えています。
これらのがんが治癒した男性たちが、結婚して自分の子どもを持ちたいと考えるのは、ごく自然な流れであると言えます。
さて、これらの男性たちの結婚・子作りはどうなっているのでしょうか?
ノルウェーから、多くの症例を長年調査した論文が出ています。Gunnes MW, et al. BJC 2016; 114: 348-356
ノルウェーでは1953年以降、全ての臨床医と病理医はがん患者と登録することが義務づけられています。従って、この年以降の全てのがん患者に関して、全数調査が可能になっています(60年以上前のことです)。この論文では、1965年から1985年にノルウェーで誕生した男性626495人がリクルートされ、この中で2007年12月31日までに、2つめのがんを発症した人や、他国に移住した人を除外し、25歳以前にがんと診断された2687人を解析の対象としています。
これらの男性について、以下の項目ががんの種類ごとに解析されました。
①結婚しましたか?
②お子さんは授かりましたか?
③お子さんを持てた手段は、体外受精などの生殖補助技術(ART: assisted reproductive technology)を利用しましたか?
④生まれてきたお子さんに先天奇形は有りませんか?
その結果、図1 Bに示しますように、がんでない同年代の男性が結婚している状態を1とした場合、がん患者さん全体では、ハザード比(HR: Hazard Ratio)が0.93であり、わずかに結婚しづらい事が判ります。がんの種類ごとに見てみると、中枢神経系のがんや網膜芽細胞腫では、それ以外のがんと比較して、さらに結婚している割合が低くなっていました(HR: 0.6程度)

Figure1

図1 Aを見てみましょう。
25歳以前にがんと診断された男性では、子どもを持てる可能性が、がん患者さん全体でハザード比0.72と低くなっています。特に、非ホジキンリンパ腫や悪性度の高い中枢神経系のがん・交感神経系のがん・網膜芽細胞腫で低くなっていました(ハザード比 0.5~0.6)
我々泌尿器科の治療対象である、胚細胞腫(精巣がん)の男性では、ハザード比 0.77とやや子どもを授かりにくい結果でした。
子どもを授かるか否かは、結婚しているかどうかに左右されますので、結婚している男性のみを対象にして解析を行っています(図1 C)。
がん患者さん全体では、結婚している男性でも子どもを持てる可能性はハザード比 0.71と婚姻の有無を考慮しない場合と同様に低くなっていました。
非ホジキンリンパ腫の場合はハザード比 0.67、精巣がんの場合もハザード比 0.64と結婚していないより悪くなりました。
この原因に関しては、論文の中では明らかにしていません。
次に、子どもを授かるためにARTを利用した割合ですが、表1に示しますように、がんでない同世代の男性に比べて、3.32倍になっています。

Figure2

やはり、何らかの不妊治療が必要なケースが多いと言うとこです。
ここで、心配なことは、生まれてきた子どもの状態です。ARTで授かった理由は主に、精子が少ない・精子の運動絵師が悪いといった、男性因子であろうと考えられます。これらの、子どもの先天異常率・早産率・出生時体重が調べられていますが、がんでない男性の場合と同様で、悪影響は無さそうであると結論しています。
このような、しっかりした大規模研究が、国がリードして行える環境はすばらしいものだと思います。
日本国内でも、同様の研究が望まれます。

小児・AYA世代のがんの長期フォローアップに関する研修会で講演します

厚生労働省の委託事業の一環として、一般社団法人日本小児血液・がん学会による「小児・AYA世代のがんの長期フォローアップに関する研修会」が2017年9月23-24日に東京で、2018年2月24-25日に大阪で開催されます。

そこで、「男性患者(患児)の結婚と妊孕性」という演題で講演します。

小児がんの80%以上に治癒を期待できる時代になりましたが、治療終了後の問題については医療者の間でさえまだ十分な理解が得られていません。 そこで、小児・AYA世代(思春期・若年成人)のがんの長期フォローアップと小児から成人への移行期医療の重要性を、医師・看護師および関係職種の方々に認識していただくことを目的に開催されるものです。


◎小児・AYA世代のがんの長期フォローアップに関する研修会開催概要

第1回(東京会場)
開催日:2017年 9月23日(土)~24日(日)
開催場所:キャンパス・イノベーションセンター東京
〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6

第2回(大阪会場)
開催日:2018年 2月24日(土)~25日(日) 
開催場所:新大阪丸ビル別館 
〒533-0033 大阪府大阪市東淀川区東中島1-18-22

一般社団法人日本小児血液・がん学会サイトはこちらから
研修会の詳細はこちらから

事務局より

がんの患者さんでは、精子力が下がりますか?

日本人の2人に1人(半数)が一生のうちに何らかのがんに罹ると推計されています。
がんは現在ではとても身近な存在です。その中でも、血液がん(白血病・悪性リンパ腫)・精巣がん・大腸がんなど青年期から壮年期の男性がん患者さんが増えています。この年台は子どもを授かろうとする、生殖年齢に一致しています。
このような患者さんの精子力はどうなっているのでしょうか?
もちろん、これらのがん患者さんで、病状が思わしくなく命の危険がある状態での精液検査を行ったデータはありません。がん患者さんで、治療開始前や治療中に精子凍結保存を希望してこられた場合のデータは、少数例ずつ報告されています。
この中で、単一施設で最も多い患者さんについての報告をご紹介します。
409人のがん患者さんの、精子凍結保存時の精液検査のデータを比較したところ、精巣がんのみが、他のがん患者に比較して精子濃度・精子運動率・総運動精子数が低い結果でした。
すなわち、精巣がん患者さんでは精子力が低下した患者さんが多いことが判りました(表:クリニックすると拡大表示されます)。

Table1

この原因は、
① 片方の精巣がんから反対側の精巣に向かって、精子形成の邪魔をするような因子が出ている。
② もともと、精巣がんは精子形成障害と共通している遺伝子異常を持っている。
という可能性が、考えられます。
現在、②の可能性が高いという証拠が集まりつつあります。

男児の妊孕性温存に関する情報です

精子形成の始まっていない男児が、悪性腫瘍に罹り、手術・抗がん剤治療・放射線治療を受けた場合の、将来の子どもを授かる見込みはどうなっているのでしょう?

精子形成がないのですから、もちろん治療開始前に精子凍結保存をすることは出来ません。
これらの患児が、治療の結果治癒した場合、子どもを授かる事がどのくらい出来ているのかを調べた研究は、国内にはありません。
St Jude Children’s Research Hospital(米国テネシー州メンフィス)からの報告によれば、診断時年齢が若年であるほど、将来に児を持てる可能性は低くなり、治療法別では手術・化学療法・放射線治療それぞれの単独療法よりも、化学療法と放射線治療の併用で、妊孕性が低下する事が示されています(表)。
国内でも、同様の研究・調査が行われると良いでしょうね。
次回は、精子形成前の男児の妊孕性温存の最前線について、解説します。

表 2017.7.7
table01

がん専門相談員向け妊孕性相談研修会が開催されました

一生の内に2人に1人はがんに罹る時代です。
誰にとっても身近な病気になっている「がん」です。
最近では、かなり多くの患者さんが治る(再発無く治癒する)病気でもあります。
患者さんの、治療後の生活の質(QOL: quality of life)を左右する様々な因子が有ることが知られています。例えば、仕事の問題や経済的な問題・精神心理的問題・運動制限や体力の問題など様々な事が、がんを克服した人々に負の影響を及ぼします。この中で、妊孕性(にんようせい:次世代の子どもを作る能力)の問題は深刻なものがあります。

本日(12月4日)、国立がんセンターで、がん患者さんたちの幅広い悩みの相談相手であるがん専門相談員さんたちを対象とした、がん患者さんの妊孕性温存に関するセミナーが開催されました。私も、1つのセクションの講義を担当いたしました。今後、がん診療拠点病院を中心に、急速相談の輪が広がって行くことが期待されます。


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朝日新聞に取材記事が掲載されました

■朝日新聞・10月21日朝刊「がんと暮らし」

朝日新聞の10月21日の朝刊のシリーズ「がんと暮らし」欄に取材記事が掲載されました。

以下、リードから
————————–
がんにかかり、抗がん剤や放射線を使う治療が始まると、子どもをつくる機能に影響が出ることがある。「将来、子どもが欲しい」と願う患者の希望に沿い、生殖機能を保つために、がんの診療科と産婦人科などとの連携が進みつつある。事前に十分な情報を得て、患者自身や家族がよく考えて納得してから治療を始めることが大切だ。
————————–

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*事務局

38回日本造血細胞移植学会総会の特別企画で講演します

名古屋国際会議場で開催されている、38回日本造血細胞移植学会総会(会長:宮村耕一先生 名古屋第一赤十字病院 副院長。血液内科部長)の特別企画 1
「造血細胞移植における妊孕性の検討」というプログラムののなかで、「移植前後の男性不妊に対する対応」について講演します。
男性がん患者の妊孕性の問題を、性機能障害・造精機能障害の2つの局面から解説します。さらに、獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンターでの、精子凍結保存プログラムの実際や、今回行った血液がん患者さんの精子凍結保存の実態調査についても報告します。
造血細胞移植の必要なぐらい強力な、化学療法や放射線療法をおこなうがん患者さんの治療を担当している治療医の方々と、生殖医療担当医をつなぐ有効なプラットホーム造りについても、獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンターでの取り組みをお話しします。
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がん患者さんの生殖に関して-1

がん患者さんの生殖を考える上で大切な事は、どのようながんが、どのような年齢に多く発生するかを知ることです。そして、男性と女性の間にその傾向に差があることを意識することです。
今回は、日本人の生殖年歴(仮に44歳以下とします)の人がかかる可能性のあるがんには、どのような種類があるのでしょうか?
日本における、がん拠点病院(たくさんのがん患者さんを診療している日本を代表する機関)の集計が公開されています。
http://www.gunma-cc.jp/sarukihan/seizonritu/index.html

この報告を元に男性・女性を分けたとき年齢別にどのようながんが発生する割合が高いかが検討されました。
Fig.1 Fig.2に男女の傾向をしまします。

Fig.1

Fig. 2

男性・女性ともに20歳以下では血液がんの割合が多く、この後に男性では消化器がんの割合が増加し、女性では乳房と女性生殖器のがんが増加することが判ります。
これらの、がんの治癒率に関しては、次回解説します。

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