第24回関東アンドロロジーカンファレンス

来る9月9日(土)に開催予定の第24回関東アンドロロジーカンファレンスにて下記の通り、当院における「男性がん患者さんの精巣精子採取術」に関しての発表が有ります。

講演:「獨協医科大学越谷病院におけるONCO-TESEの現状」
〇寺井 一隆1)、岩端 威之1)、鈴木 啓介2)、大野田 晋1)、山本 篤1)、宮田あかね1)、小堀善友2)、杉本公平1)、岡田弘1)2)
1)獨協医科大学越谷病院 リプロダクションセンター 2)獨協医科大学越谷病院 泌尿器科

■第24回関東アンドロロジーカンファレンス開催概要
日程:平成29年9月9日(土)
時間:14:00~17:40 
会場:ホテルメルパルク東京 4階「白鳥」

事務局

騒音は男性不妊に関係しますか?

環境騒音は、動物実験モデルでは繁殖力に影響すると結論されています。
ヒトの場合はどうでしょうか?
騒音により、ストレスが生じ、このために視床下部-下垂体-精巣系の内分泌調整機能が障害宇され、精子形成に悪影響が出るのでは?と推定されています。
この疑問に答えるデータが韓国から出てきました。(Min KB, et al. Environmental Pollution. 2017; 226: 118-124)
韓国の環境省の騒音測定結果と男性不妊の関係を調査しています。
生殖年齢を20歳から59歳と定義して、2002年の全体対象人口(男性人口)の2.2%に当たる1025340人を前向きに調査しました。
先天奇形・感染症・尿路性器の外傷・精巣がんを除外しています。
2013年まで経過観察して、男性不妊との関係を調べました。
昼間の騒音:60デシベル(dB)以下とそれ以上<ヨーロッパの環境基準に準拠>
夜間の騒音:55dB以下とそれ以上<心筋梗塞に影響があるとされる閾値>
男性不妊の定義はICD-10 code N46に従っています。用いた精液検査の基準値はなぜかWHO1999版(精子濃度の基準値が2000万/ml以上)でした。
この結果、昼間騒音が60dB以上、夜間騒音が55dB以上ではそれ以下と比較して、男性不妊の割合が高い結果でした。(図1)

Figure1

さらに、騒音の程度を4段階に分けた場解析でも、昼間も夜間も騒音が基準を超すと、どの程度の騒音でも男性不妊の割合は増加していました。(表1)

Table1

しかし、騒音の増加と男性不妊率は、相関関係は見いだせませんでした。
やはり、静かな環境は大切なようです。
日本の環境基準を示しておきましょう。この研究の基準値より、もう少し静かな環境が勧められているようです。
(表2)

Table2

若い時にがんと診断された男性の結婚と子作り

近年、青年期以前にがんと診断されたが、その後の治療のおかげでがんは治り、普通の生活が送れるようになる患者さんが増えています。
これらのがんが治癒した男性たちが、結婚して自分の子どもを持ちたいと考えるのは、ごく自然な流れであると言えます。
さて、これらの男性たちの結婚・子作りはどうなっているのでしょうか?
ノルウェーから、多くの症例を長年調査した論文が出ています。Gunnes MW, et al. BJC 2016; 114: 348-356
ノルウェーでは1953年以降、全ての臨床医と病理医はがん患者と登録することが義務づけられています。従って、この年以降の全てのがん患者に関して、全数調査が可能になっています(60年以上前のことです)。この論文では、1965年から1985年にノルウェーで誕生した男性626495人がリクルートされ、この中で2007年12月31日までに、2つめのがんを発症した人や、他国に移住した人を除外し、25歳以前にがんと診断された2687人を解析の対象としています。
これらの男性について、以下の項目ががんの種類ごとに解析されました。
①結婚しましたか?
②お子さんは授かりましたか?
③お子さんを持てた手段は、体外受精などの生殖補助技術(ART: assisted reproductive technology)を利用しましたか?
④生まれてきたお子さんに先天奇形は有りませんか?
その結果、図1 Bに示しますように、がんでない同年代の男性が結婚している状態を1とした場合、がん患者さん全体では、ハザード比(HR: Hazard Ratio)が0.93であり、わずかに結婚しづらい事が判ります。がんの種類ごとに見てみると、中枢神経系のがんや網膜芽細胞腫では、それ以外のがんと比較して、さらに結婚している割合が低くなっていました(HR: 0.6程度)

Figure1

図1 Aを見てみましょう。
25歳以前にがんと診断された男性では、子どもを持てる可能性が、がん患者さん全体でハザード比0.72と低くなっています。特に、非ホジキンリンパ腫や悪性度の高い中枢神経系のがん・交感神経系のがん・網膜芽細胞腫で低くなっていました(ハザード比 0.5~0.6)
我々泌尿器科の治療対象である、胚細胞腫(精巣がん)の男性では、ハザード比 0.77とやや子どもを授かりにくい結果でした。
子どもを授かるか否かは、結婚しているかどうかに左右されますので、結婚している男性のみを対象にして解析を行っています(図1 C)。
がん患者さん全体では、結婚している男性でも子どもを持てる可能性はハザード比 0.71と婚姻の有無を考慮しない場合と同様に低くなっていました。
非ホジキンリンパ腫の場合はハザード比 0.67、精巣がんの場合もハザード比 0.64と結婚していないより悪くなりました。
この原因に関しては、論文の中では明らかにしていません。
次に、子どもを授かるためにARTを利用した割合ですが、表1に示しますように、がんでない同世代の男性に比べて、3.32倍になっています。

Figure2

やはり、何らかの不妊治療が必要なケースが多いと言うとこです。
ここで、心配なことは、生まれてきた子どもの状態です。ARTで授かった理由は主に、精子が少ない・精子の運動絵師が悪いといった、男性因子であろうと考えられます。これらの、子どもの先天異常率・早産率・出生時体重が調べられていますが、がんでない男性の場合と同様で、悪影響は無さそうであると結論しています。
このような、しっかりした大規模研究が、国がリードして行える環境はすばらしいものだと思います。
日本国内でも、同様の研究が望まれます。

小児・AYA世代のがんの長期フォローアップに関する研修会で講演します

厚生労働省の委託事業の一環として、一般社団法人日本小児血液・がん学会による「小児・AYA世代のがんの長期フォローアップに関する研修会」が2017年9月23-24日に東京で、2018年2月24-25日に大阪で開催されます。

そこで、「男性患者(患児)の結婚と妊孕性」という演題で講演します。

小児がんの80%以上に治癒を期待できる時代になりましたが、治療終了後の問題については医療者の間でさえまだ十分な理解が得られていません。 そこで、小児・AYA世代(思春期・若年成人)のがんの長期フォローアップと小児から成人への移行期医療の重要性を、医師・看護師および関係職種の方々に認識していただくことを目的に開催されるものです。


◎小児・AYA世代のがんの長期フォローアップに関する研修会開催概要

第1回(東京会場)
開催日:2017年 9月23日(土)~24日(日)
開催場所:キャンパス・イノベーションセンター東京
〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6

第2回(大阪会場)
開催日:2018年 2月24日(土)~25日(日) 
開催場所:新大阪丸ビル別館 
〒533-0033 大阪府大阪市東淀川区東中島1-18-22

一般社団法人日本小児血液・がん学会サイトはこちらから
研修会の詳細はこちらから

事務局より

子どものいる人生と子どものない人生-寿命に関係するの?

2017.08.25 | 新知識, 未分類

子どものいる人と、子どものいない人の寿命に差があるのでしょうか?
カロリンスカ研究所からの報告が今年Journal of Epidemiology and Community Health(2017; 71: 424-430)誌に掲載されました。
1911年から1925年に生まれて、60歳時にスエーデンに居住していた男性704481人女性725290人を追跡調査しました。統計学で用いられているperson-yearsで表現すると男性で1410万person-years、女性で1760万person-yearsのデータが蓄積され解析されました。そして、様々な因子が、寿命に影響するため、教育レベルを考慮した解析がなされました。
男性の60歳時点での期待余命は、子どものいる場合20.2年・子どものいない場合18.4年でした。女性の60歳時点での期待余命は、子どものいる場合24.6年・子どものいない場合23.1年でした。
死亡リスクは、どの年齢でも男性の方が女性より高く、男女ともに子どものない場合の方が高い傾向にありました。(図1)

Figure1

この傾向は、結婚していない男性で、子どもがない場合に最も顕著に死亡リスクが高くなることが判りました。しかし、女性では、男性よりこの差はずっと少なくなります。
この原因を探るために、子どものいる人で子どもの近く(50Km以内)に住んでいる人と子どもから離れて(51Km以上)住んでいる人に分けて、それぞれを子どものない人の死亡リスクを比較しました。すると、男女ともに子どもの近くに住んでいる方が、死亡リスクが少なくなることが判りました。(図2)

Figure2

人はファミリーを形成して、そのファミリーは近くにあるようにするのが、良いようです。
還暦になると、親元へ帰る同僚が多くみられると思います。これは、自然の摂理にかなった親孝行かも知れません。

男性不妊に対する関心度は?

不妊症に悩むご夫婦が増えているとの報道が相次いでいます。
原因は、環境汚染・メタボ・遺伝子異常・婚姻-挙児に対する意識の変化・子どもを産み育てにくい社会構造 などなど様々に取りざたされています。
この中で、男性不妊に対する関心はどうでしょうか?
過去5年間の検索数の変化を調べてグラフにしました。図1

figure1

最も検索の多かった2012年9月(この前にNHKが不妊症の特集をした)を100とすると、2017年8月は97と過去最高を更新する勢いです。
このように、男性不妊に対して関心が高まっている時期ですので、正しいデータ・わかりやすい解説を心がけたいと思います。
ネットにあふれる情報を整理してお届けする、サイト(http://maleinfertility.jp/http://www.dokkyomed.ac.jp/dep-k/repro/index.html)の運営に努力します。

アルコールと妊娠に関する最新文献 2017

2017.08.20 | 不妊症全般, 新知識

これまでにも、アルコールと妊娠に関係がある・関係がないなど様々な報告があります。今回は、同一国内で行われた2つの最新の論文を見てみましょう。
デンマークで行われた、インターネットを利用した、前向き研究があります。2007年6月から2016年1月までに9497人の女性が登録し、最終的に6120人のデータが解析対象になりました。
参加者は、男性パートナーとの関係が良好で、明らかな不妊原因や不妊治療歴がないことが条件とされました。
まず、身長体重などの基礎的身体情報・教育水準・収入・喫煙・性周期・週間のセックスの回数・タイミング法の使用の有無・妊娠歴を登録し、子どもを作ろうとし始めてから妊娠するまで(12ヶ月以内)ないしは12ヶ月間は、2ヶ月毎に、その前月のアルコール摂取についてレポートをインターネット経由で送りました。・・・これはかなりの困難を伴う研究です。
アルコール摂取量は以下のように定義されました。
1杯:ビール1瓶(330ml)、グラス一杯の赤または白ワイン(120ml)、デザートワイン(50ml)、スピリット類(20ml)
この結果、自然妊娠にとっては、アルコールを飲まない~中等度(1週間に13杯まで)は、妊娠率に大きな影響はないことが判りました。
また、飲んだアルコールの種類によっての、差はないこともわかりました。週間14杯異常のヘビードリンカーでは、相対妊娠率が低下するのですが、特に非経産婦・タイミング法を行っている女性で傾向が顕著でした。(表1)

Table1

全体の相対妊娠率をグラフ化すると(アルコールを飲まない人を1とする)と図1の様になり、信頼区間の幅は広いものの、1週間のアルコール摂取が10杯程度から、妊娠率が低下すると考えられます.

Table2

結論としては、多数の女性が参加した前向き研究では、10杯程度と超えるアルコール摂取は、自然妊娠には悪影響があるという事です。
しかしながら、この研究からは、なぜ妊娠率が下がるのかは不明です。生活習慣に関係した事柄が、いかにして妊孕性に影響を与えるかを解明するのは、なかなか難しいことだと言えます。

2017年7月に、同じデンマークから、男性または女性のアルコール摂取が、体外受精の妊娠率に与える影響について、後ろ向きの調査を行った報告が出されました。Vittrup I, et al.Reprod Biomed Online. 2017; 35: 152-160
これによれば、体外受精を受けた12981人の女性が29834周期の体外受精を受け、アルコールを飲まない人で22.4%、アルコールを1週間に7杯以上飲む人では20.4%で子どもが生まれました。
また、男性の場合はアルコールを飲まない人のパートナーは22.6%で子どもが生まれ、1週間に14杯以上飲む人でも20.2%でした。この両者には差がありませんでした。
つまり、不妊治療としての、体外受精をしているカップルにとって、アルコールを飲むことは、必ずしもマイナスに働いていないという結果でした。
アルコールはまさに「百薬の長」と言えます、しかし「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」です。適度にすることが大切でしょう。

「1回のセックスで、妊娠する?」というのは、どのくらいの割合であることなのでしょうか?

2017.08.19 | 不妊症全般, 新知識

WHOの定義では、1年以上避妊をしないセックスを続けていても、妊娠に至らない場合を不妊症としています。すなわち、健常なご夫婦であれば、12周期(月経周期:約1か月が1周期)でほとんどが妊娠すると考えられています。
実際には、どのようなデータがあるのでしょうか?
ドイツで行われた、大規模な前向き研究結果が2003年に公表されています。
男性パートナー・女性パートナーのいずれにも、不妊原因となるものがないカップルで、自然妊娠で子供を授かるために、セックスをした場合に、妊娠するためにどのくらいかかるのかを調べました。
346人のカップルで、自然妊娠を目的として、基礎体温・子宮頚管粘液の自己チェックで、排卵日を予測して、セックスするいわゆるタイミング治療を行い、妊娠しない場合は最高21周期まで、経過を観察しました。
この結果、最終的に304人が妊娠しました。
累積の妊娠率を、周期ごとにグラフにすると 図1のようになりました。

Figure1

この中で、最終的に21周期以内に妊娠した304人についての累積妊娠率は( )で示してあります。
1周期で38%、3周期で68%、6周期で81%、12周期(約1年)で92%のカップルで妊娠しました。
自然妊娠を目指したカップルの約40%が、タイミング法開始した直後(1周期目)に妊娠するというのは、かなり衝撃的です。
さらに、女性パートナーの年齢と累積妊娠率の関係をみると、35歳を超えると自然妊娠を試みた各周期で、35歳以下よりも妊娠率が低い事がわかりました(図2)。

Figure2

健康なご夫婦でも、35歳問題は大問題です。

がんの患者さんでは、精子力が下がりますか?

日本人の2人に1人(半数)が一生のうちに何らかのがんに罹ると推計されています。
がんは現在ではとても身近な存在です。その中でも、血液がん(白血病・悪性リンパ腫)・精巣がん・大腸がんなど青年期から壮年期の男性がん患者さんが増えています。この年台は子どもを授かろうとする、生殖年齢に一致しています。
このような患者さんの精子力はどうなっているのでしょうか?
もちろん、これらのがん患者さんで、病状が思わしくなく命の危険がある状態での精液検査を行ったデータはありません。がん患者さんで、治療開始前や治療中に精子凍結保存を希望してこられた場合のデータは、少数例ずつ報告されています。
この中で、単一施設で最も多い患者さんについての報告をご紹介します。
409人のがん患者さんの、精子凍結保存時の精液検査のデータを比較したところ、精巣がんのみが、他のがん患者に比較して精子濃度・精子運動率・総運動精子数が低い結果でした。
すなわち、精巣がん患者さんでは精子力が低下した患者さんが多いことが判りました(表:クリニックすると拡大表示されます)。

Table1

この原因は、
① 片方の精巣がんから反対側の精巣に向かって、精子形成の邪魔をするような因子が出ている。
② もともと、精巣がんは精子形成障害と共通している遺伝子異常を持っている。
という可能性が、考えられます。
現在、②の可能性が高いという証拠が集まりつつあります。

サウナ好きなんですが、「精子力」に悪いですか?

精子形成は温度に敏感である事は良く知られています。
度々質問される事ですが、日本人はなぜかサウナ好きが増えているようです(図1 日本サウナ総研調べ)。
サウナと精子力 2017.8.115図1
妊活中の男性の中には、サウナを控えるか否かを迷っている方も多いと思います。
サウナの精子力に対する効用ならず、作用を調べた報告を紹介します。
イタリアからの報告です。
10人の精液検査では基準値以内のボランティアに、3ヶ月間80-90℃のサウナに、15分間2回/週入ってもらう習慣を3ヶ月間続けてもらいました。そして、サウナを使用する前・サウナ使用を3ヶ月間続けた時点・サウナ使用を中止してから3ヶ月時点・サウナ使用を中止してから6ヶ月に時点での、精液検査を行い比較しました。さらに、精子DNAの状態や精子のエネルギーを生み出すミトコンドリアの状態や、精子のクロマチンの状態・精子のアポトシースの状態を調査しました。(Garolla A, et al. Hum Reprod. 2013; 28: 877-885)
その結果、サウナに入ると陰嚢皮膚温は、入用前の34.5±0.6℃から37.5±0.4℃に有意に高くなりました。
精子力に対してはどうだったでしょう? 精子濃度、総精子数、前進運動精子率は3ヶ月間のサウナ使用で低下しました。
その他の精液量・正常形態精子率・生存精子率は変化がありませんでした。
サウナ使用をやめて3ヶ月すると、低下した精子濃度と前進運動精子率は元の状態に回復し、6ヶ月サウナ使用を中止すると、全ての測定値が元に戻りました。
すなわち、サウナを週2回使用することで3ヶ月目には精子力は低下しますが、その影響はサウナ使用を6ヶ月以上やめるとなくなるということです。(図2)
サウナと精子力 2017.8.115図2 訂正版
この原因として、ミトコンドリア機能が低下したり、精子のDNAの格納状態が変化したり、クロマチンの濃縮率が低下することが、関係している事を挙げています。
この結果からは、妊活中はサウナはやめた方が良さそうです。

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