顕微授精(ICSI)により誕生した男性の精液検査所見は?

精子濃度が低いとか、精子運動率が低いとか、総精子数が少ないとか、精子の形が悪いとかの男性因子での不妊症に対して、顕微授精(ICSI)が行われるようになって、20年あまりが過ぎました。

そこで、当然の疑問に、
『男性因子のためICSIをすることにより誕生した子どもたちが成人になったときに、自分の父親と同じように不妊症に悩み、やはり顕微授精(ICSI)が必要になるのか?』
という事があります。

これに、対するヒントになる論文が出ました。
世界に先駆けて、顕微授精(ICSI)での妊娠例を報告したTournayeらのベルギーからの論文です。
Semen quality of young adult ICSI offspring: the first results. Human Reproduction,pp.1–10, 2016 doi:10.1093/humrep/dew245

2013年から2016年にかけて、以前に顕微授精(ICSI)によって誕生した男性54人(18歳から22歳)と自然妊娠により誕生した男性57人(18歳から22歳)を対象として、精液検査の結果・身長体重や外性器の状態・日常生活習慣(喫煙や飲酒など)を2群で比較しました。

この結果、顕微授精(ICSI)で誕生した男性の方が、精子濃度・総精子数・総運動精子数が有意に低い事が判りました。(図1)

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精子運動率、精液量、正常形態精子濃度には差がありませんでした。

また別の解析では、顕微授精(ICSI)によって誕生した男性は、自然妊娠により誕生した男性に比して、WHOの精液検査の基準値(精子濃度1500万/ml・総精子数3900万)を下回る危険性が検討されました。これによれば、精子濃度大幅に増大することが報告されました。すなわち、精子濃度1500万/mlを下回る可能性は2.7倍に、総精子数3900万を下回る可能性は4.3倍になるとのことです。

この論文で大変重要なことは、この結果から、男性因子により顕微授精で誕生した男性は、父親と同じく精子形成障害を引き継いでいるのだ。さらに、顕微授精で誕生した男性の場合は、自分の父親がそうであったように、子どもを得るには顕微授精(ICIS)が必要になるのだ。と結論するには飛躍があります。

精子形成障害のある父親から顕微授精(ICSI)で誕生した男性の妊孕能に関して、充分な根拠と持った結論を導き出すためには、次のような検討が必要になります。

① 男性因子以外により顕微授精(ICSI)が行われて誕生した男性の精液検査結果の解析。
② 父親の精液検査結果と顕微授精(ICSI)により誕生した男性の精液検査結果に相関関係がある事(今回の検討では証明されなかった)の証明。
③ 今後、精子形成を左右するgenetic, epigenetic factorの解析。

実際に、顕微授精(ICSI)で誕生した男性の妊孕性に関する大規模データが出るには、これらの男性が挙児を試みてしばらく観察する必要があるため、あと5-10年は待たなければならないでしょう。

今後同様な研究成果が続々と発表されることと思われますので、目が離せない状況です。

「どんなものを食べると精液検査に悪い影響があるのですか?」その1

これは、不妊に(特に男性不妊に)悩むカップルからよく尋ねられる質問です。
特に、魚がよいのか。肉がよいのか。などなどです。
これに対する答えは十分なデータがありません。
しかし、最近ハーバード大学から興味深い報告がなされました。
Processed meat intake is unfavorably and fish intake favorably associated with semen quality indicators among men attending a fertility clinic.
Afeiche MC,et al. J Nutr. 2014,144:1091.

彼らは、Massachusetts General Hospital Fertility Centerを受診した、男性不妊患者155人を対象にして、食事と精液検査所見を比較しました。
この中で、加工した赤身の肉・加工しない赤身の肉・赤身の魚・家禽肉・白身の魚について詳細な検討を行っています。
それぞれはどんな肉を指すかと言いますと、つぎのようになります。
加工した赤身の肉(processed red meat):ハンバーガーのパテ・ホットドッグ・ベーコン・サラミやボローニャソーセージ
加工しない赤身の肉(unprocessed red meat):牛肉・豚肉・ラム・ハムなどで、サンドウィッチや副菜や主菜として食べたもの
家禽肉(poultry):チキンや七面鳥などで、主菜やサンドウィッチとして食べたもの
内臓肉(organ meat);牛・豚・チキン・七面鳥の肝臓
赤身の魚(dark meat fish):マグロ・サケ
白身の魚(white meat fish):鯛・鱈
甲殻類や貝(shellfish):エビ・ホタテ

まず、肉食と摂取される栄養素のうちで、脂質とタンパク質に注目して分析しました。(画像をクリックして拡大・Table 1)
Table1
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すると、肉の摂取量の多い人は、総摂取カロリーが高い傾向がありました。
さらに、飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸の割合が高い傾向がありました。しかし、多価不飽和脂肪酸の割合は肉の摂取量の影響を受けていませんでした。
トランス脂肪酸・ω-3脂肪酸・総エネルギー摂取量に占める動物性脂肪やタンパク質の割合(特に動物性タンパク質の割合)が有意に高い傾向がありました。
さらに、著者たちは食生活を2つに分類しています。
Prudent pattern:野菜・果物、全穀物、鶏肉、魚をベースにした良識ある賢明な食生活パターン
Western pattern :赤身肉や加工肉、飽和脂肪、糖分を多く摂る欧米型食生活パターン
すると、肉の摂取量の多い人は2つの食生活のパターンともスコアが高い傾向にあったのですが、よりWestern patternが強くなる傾向がありました。

次に、肉食と精液所見の関係を調査しました。(画像をクリックして拡大・Table 2)
Table2
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すると、肉の総摂取量は影響を与えませんでしたが。赤身の加工肉の摂取が増えるほど正常形態精子率が低下しました。
加工していない、赤身の肉の摂取量は精液所見に影響を与えませんでした。
内臓肉を食べる人の方が、食べない人より正常形態精子率が有意に高い事が分かりました。家禽類の肉の摂取量は精液所見に影響を与えませんでした。

さらに、魚肉についても解析しています。(画像をクリックして拡大・Fig. 1)

Fig.1
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1週間に魚を食べる回数が多くなるほど、総精子数・精子濃度・精子運動率・正常形態精子率はよくなる傾向にある事が分かりました。

魚肉の種類についても調査しています。(画像をクリックして拡大・Table 3)
Table3
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赤身の魚肉の摂取量が多いほど、総精子数・正常形態精子率は有意に高いことが分かりました。また、白身の魚肉の摂取量が多いほど、正常形態精子率が高いことも分かりました。しかし、甲殻類の摂取は精液所見に影響がありませんでした。

この論文からは、肉食の場合は、摂取量が増えるほど摂取される脂質・タンパク質の種類が偏る傾向がありましたが、総摂取量と精液検査の関連は明らかではありませんでした。赤身の加工肉は避けて、少しは内臓肉を食べ、出来れば魚肉の摂取を増やした方が、精液所見にはよい方に作用する可能性があると考えられます。
しかし注意しなければならないのは、これは横断的疫学調査であり、食生活を変えれば精液所見がどのように変化をするかを見た研究(介入研究といいます)ではない点です。
今後の、研究の進歩が待たれるところです。

ここで、もう一つ注意しなければいけないのは、参加者の大多数(83%)が白人のアメリカ人であると言うことです。日本人は、世界に冠たる雑食人種です。
日本人のデータはありませんので、現在我々が調査を進めています。
後3ヶ月ほどで調査が終わりますので、半年後ぐらいにはその成果をお見せできると思います。ご期待ください。

精巣精子はすぐ顕微授精?それとも凍結保存して顕微授精?

Microdissection TESE (MD-TESE:顕微鏡下精巣精子採取術)について説明する時によく尋ねられる質問です。
「精巣精子が採取できたとして、これはすぐに使用する方が良いのですか?それとも凍結保存して使っても良いのですか?」
閉塞性無精子症の場合は、TESEで精子採取が100%可能ですから、採取できた精子をすぐに使用する顕微授精(fresh TESE-ICSI)で良いと考えられます。
なぜならば、採取直後からほぼ全ての症例で、運動性のある精巣精子を探し出すことが出来るので、これを確実に顕微授精(ICSI)に用いることが出来るからです。

これに対して、精子形成障害による無精子症(azoospermia due to spermatogenic dysfunction : ASD; 以前には非閉塞性無精子症: nonobstructed azoospermia; NOAと呼ばれていた)の場合はどうでしょうか。精巣精子が採取できる確率は40-50%です。裏返して言えば成熟精子は50%以上で採取できないことになります。
それなら、MD-TESEに合わせて採卵している場合は、その卵は使用する事が出来なくなり、卵は破棄される事になります。そうでなければ、授精率・妊娠率ともに極端に低い未熟精子ないしは円形精子細胞などを、いわば無理矢理顕微授精することになるのです。
採卵という女性の身体に大きな侵襲のある処置が、無駄になるのは出来るだけ避けなければなりません。そこで、精巣精子が採取出来た場合はこれを凍結保存すれば、将来の顕微授精に備えることが出来ます。つまり、顕微授精に使用出来る精子の確保を確認してから、採卵にかかれば良いので、無駄な採卵をなくすことが可能になるわけです。

さて、この凍結保存精巣精子を用いた顕微授精と新鮮精巣精子を用いた顕微授精に、受精率・妊娠率に差があるのでしょうか?
これに対する回答はこれまでに、少数の報告例でのみなされてきました。従って信頼性(エビデンスレベル)が低いかもしれなかったのです。
最近この論争に現時点で結論を出す論文が出ました。(Ohlander S, et al. Fertil Steril 101: 344-349, 2014)
これは、メタアナリシスと言う統計分析法を用いています。具体的には、これまでに報告されている論文の内で、ある基準に合致するもののみ(エビデンスレベルの高いものを中心に)を集めて、解析しなおしたものです。
これまでの224論文を詳しく調べて、基準に合格した11論文について解析しています。
その結果は、ASDの場合は新鮮精巣精子を用いても、凍結保存精巣精子を用いても、妊娠率と受精率に差が無いという結果でした。(画像をクリックして拡大・Fig. 1, 2)
FIg 1 2014.9.15
Fig1_20140915
Fig. 2 2014.9.15
Fig2_20140915

すると、女性に対する優しさからは、凍結保存精巣精子を用いた方が良いことになりますね。
我々の施設では、現在この論文の追試を開始するところです。
結果が出ましたら、再度ご報告しましょう。

「早漏って多いのですか?」

友人からこんな情報が寄せられました。

『岡田、現在のAmazonアダルトDVDの売上ランキングによれば、10位内に2本の早漏に対する対策DVDがランクインしているぞ!』

男性不妊の相談では、射精障害に関しては圧倒的に膣内射精障害が多いのですが、早漏で悩んでいる患者さんが、私たちが把握できているよりもっと多いのかも知れません。

そこで、国内の文献を調査してみました。しかし、国内での大規模調査はなされていません。そこで、アジアの国について調べてみました。すると、韓国での調査が2010年に発表されていました。

2037人の20歳以上の男性についてインターネットを通じて調査したもので、射精を制御できたスコアを10段階で回答してもらい、さらに膣内にペニスを挿入してから射精までの時間(intravaginal ejaculatory latency time.:IELT)を尋ねています。Park HJ, e al. Asian J Androl. 2010 12:880-9.Prevalence of premature ejaculation in young and middle-aged men in Korea: a multicenter internet-based survey from the Korean Andrological Society.

20歳以上の各年齢毎に、6ポイント(10ポイントが満点)程度の射精の制御が可能であったと回答していて、年齢による変動はありませんでした。(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
Fig. 1
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IELTは5-10分が38.6%と最多でした。(画像をクリックして拡大・Fig.2)
Fig2
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さらに、自分が早漏であると自覚している人の割合は、驚くべき事に20歳台23.4%、30歳台24.6%、40歳台30.7%、50歳以上36.8%と年齢が上昇するにつれて高くなっています。(画像をクリックして拡大・Fig. 3)
Fig3
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こんなにたくさんの男性が早漏であるのならば、早急に日本でのデータを作る必要があります。

早速、取りかかりますので、続報をお待ちください。

精液検査でOKが出ましたが、子宝に恵まれません

精液検査の結果についてよく尋ねられる事です。
精液検査だけでは、判ることに限界があります。このことを気付かしてくれる新しい論文が出ましたので紹介しましょう。

「精子力」が加齢変化を受けることを、昨年から度々様々な学会やメディアを通じて発表して来ましたが、最新の論文でも更なるデータが積み上がってきました。
精子の大きな役割は、受精卵ができて胚になってお母さんの子宮でヒトに成長するのに必要な、遺伝情報の約半分を卵に運び込むことにあります。この、DNAが傷ついていたのでは、妊娠・出産に結びつかないことは想像に難くありません。
最新の「男性の年齢と精子DNA断片化率について」の論文をご紹介いたします。Fertil Steril. 2014 Mar 29. pii: S0015-0282(14)00144-7. doi: 10.1016/j.fertnstert.2014.02.006. [Epub ahead of print]

パリのBellocらは、無精子症を除いた4345人の不妊外来患者と、その内で2010年版のWHOの基準値で、正常精液検査結果の1974人を対象にして、精子DNA断片化率を検討しました。

無精子症を除いた全ての不妊患者さんと比較して、精液検査で異常の無い患者さんたちは、勿論精液量・精子濃度・運動率・正常形態精子率のいずれも良好でした。また、精子DNA断片化率は低いことが判りました。
(画像をクリックして拡大・Table 1)
Table-201406
Table 12014.6.1

これまでの多くの報告では、今述べましたように、不妊外来を受診した男性患者さん全てを対象にしたり、精液検査で精子濃度が低かったり・運動性が悪かったりするいわゆる男性因子の患者さんを対象にしたものばかりでした。
この研究の面白いのは、さらに解析を続けています。
現在の精液検査の基準(2010 WHO)では異常なし(正常精液所見と判定)の不妊患者さん:原因不明不妊とか特発性不妊とか呼ばれています:を研究の対象とした事です。
彼らの研究によれば、たとえ精液検査で異常が無くても年齢が上がるほど、精子DNA断片化率は高くなるのです。
(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
fig-201406
Fig. 1 2014.6.1
やはり、「精子力」は加齢とともに低下するのです。
さらに、精子機能(「精子力」)は、一般の精液検査だけでは判定できない事に注意が必要です。
さらなる検査法の開発・普及に努力いたします。

男性不妊に対する助成制度について

不妊治療には健康保険が適応されていないものが多数あるために、若い患者カップルの経済的負担が増加しています。そこで、少子化対策の一環として、各地方自治体単位で助成金を支給する制度があります。その制度を少し見直してみましょう。
対象は
「治療開始時に法律上の婚姻関係にある夫婦で、特定不妊治療以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか、又は極めて少ないと医師に診断された方で、次のいずれにも該当する方」
となっています。

さらに、以下のような条件が付帯しています。
• 夫婦ともに、または夫婦のいずれか一方が○○都道府県に住所がある方
• ○○都道府県が指定した医療機関において特定不妊治療を受けた方
(指定医療機関は、都道府県知事、政令指定都市及び中核市の市長が指定した医療機関で、県外の医療機関でも、その都道府県知事等が指定していれば助成の対象となります。)
• 夫及び妻の前年(1月から5月までの申請にあっては前々年)の所得の合計額が730万円未満であること。(所得の合計及び計算方法は児童手当法施行令を準用します。)

助成額は東京都を例に取れば、(画像をクリックして拡大・Table 1)の通りです。(都道府県や市単位で少し額が違う場合もあります)
table1_201405
2014.5.25 Table 1

さらに、この制度は平成28年から変更が決まっています。(画像をクリックして拡大・Table 2)
table2_201405
2014.5.25 Table 2

これに対して、現在男性不妊の治療に対して助成を行っているないしは行なう事を決定しているのは、三重県と福井県と浦安市と大分市しかありません。
最初に行動を起こした三重県は、大阪でリプロダクションクリニック大阪を運営している、私の後輩の石川智基医師の熱意が知事を動かしたと聞いています。
人口の集中している、関東圏・関西圏で同じように、男性不妊に対する助成制度が広がっていくことを切に望んでいますし、現在自治体に協力の要請をしています。
助成額の多寡ではなく、男性不妊そのものに目を向けてもらうための、最も効果的な手段であると考えます。
皆様は、いかがお考えでしょうか?






どんな食べ物が精子に良いですか?

「どんな食べ物が精子に良いですか?」
これも、患者さんから尋ねられる事です。
これまでに、環境から入ってくるエストロゲンが精子に悪い影響を与えていることは明らかになっていますが、欧米では特に、食べ物として入ってくるエストロゲンの60-80%がミルクによるものであると言われています。

高脂肪食の人は、形態異常精子率が高かったり、直進運動精子率が低かったとの報告があるため、Chavarro博士たちは、高脂肪食と精液所見の因果関係を調べました。(Fertil Steril 101: 1280-1287, 2014)

まず、マサチューセッツ総合病院の不妊センターに人工授精または体外受精を受けに来た患者(女性)のご主人に、食物摂取頻度調査票(FFQ)を渡して、思い出しての記録ではなく前向きに食事内容を記録してもらいます。その内容から、高脂肪食はどうか・ミルクは何を飲んだか・チーズの種類は・ピザは食べたか・・・・とこと細かに記録してもらいます。それから精液検査をして、摂取食物との関連を調べたのです。

摂取カロリー別に、4群に分けて比較してみると、最も高カロリー食であったのは、白人で喫煙歴がない人たちでした。そして、この人たちは、朝食は冷たいシリアルが多く、タンパク質と飽和脂肪酸に富んだ食事内容でした。

精液検査との関係では、
① チーズの摂取量が多いほど有意に精子濃度が低く、総精子数と前進運動率も低い傾向がある.
② チーズ摂取の多い群は、低い群に比較して総精子数が31.9%、精子濃度が38.5%、前進運動精子率が5.4%低い.
③ 低脂肪食の群は、高脂肪食の群に比較して、33.3%精子濃度が高く、9.3%前進運動精子率が高い.
④ 低脂肪ミルクをよく飲む人は余り飲まない人に比較して精子濃度が29.9%、前進運動精子率が8.7%高い.
と言う調査結果でした.

また、背景因子を揃えてみると、低脂肪食の頻度が高いほど・低脂肪ミルクを飲む回数が多いほど、精子濃度が高いと言う結果も出てきました。
(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
2014.5
Fig.1 2014.5.24

この理由は、内分泌の面から・インスリン様成長因子IGF-1の面から推察していますが、十分な説明には至っていません。
単純に、この結果を日本人に当てはめるわけには行きません。世界に冠たる雑食の日本人で調査すれば、きっと違ったデータになると思います。今後の、我々の研究に期待して下さい。

出生率と経済

21014年5月20日の日本経済新聞にとても興味深い記事(「財政再建、出生率の視線を」)が載っていました。
(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
20140521
Fig. 1 2014.5.21

現在の日本の合計特殊出生率は1.41(本年度発表)ですが、今後に関して国立社会保障・人口問題研究所の人口推計ではもう少し低下すると予測されています。この中で、中間的な推計値である中位推計では出生率は1.35と予測されており、これを元に議論が展開されています。
記事を書いた、世界平和研究所主任研究員の北浦修敏氏によれば、出生率が1,35の中位推計の値で今後22世紀まで続くとすると。生産年齢人口は、2040年以降毎年1.5%ずつ減り続け、これに伴って、政府の支出は増加し、2070年頃に現在よりも7%増して、プラトーに達すると計算されています。この支出をまかなうために、消費税率を現在よりも14%程積み増さないといけなくなるというのです。
これに対して、出生率が2.07に増加した場合は逆に2040年頃から、新たに生まれた世代が生産年齢人口に加わるため、2090年までに現在の水準の政府支出に戻すことが、可能になるというのです。消費税率も、一時的には上昇しますが、現在と同じ水準に戻すことが可能になるというものです。

国が豊でなければ、子どもを産み育てることは出来ません。
不妊治療だけで解決するわけではありませんが、少子化対策は正に待ったなしの崖っぷちになっている事がお分りになるでしょう。
今、手を打ってもその効果が出始めるのは2040年頃です。
つまり、4半世紀のギャップがあるのです。

たばこと男性不妊 第1話

よく尋ねられる事ですが、『タバコは不妊に影響しますか?』
医者の立場としては、第一に身体に悪いから禁煙を勧めます。
今日は、タバコと男性不妊についてのお話しのその1です。

タバコは細胞の活性酸素産生を誘導して精子の不飽和脂肪酸を多く持った細胞質膜にダメージを与える事が判っています。そのほかの,メカニズムはどうでしょうか?

精子形成過程で、精子のDNAをパックしているヒストンというタンパク質がtransition proteinになりクロマチンの濃縮が起る過程でプロタミンというタンパク質に置き換わります。この間に精子は大きく形を変え伸張精子細胞(elongated spermatid)に変わります。
小さな精子頭部に、遺伝情報がぎゅうぎゅう詰めにパックされるためには、このヒストン⇒プロタミンの置換が必要になります。この置換が正常に起っていない精子は受精に寄与しないと考えられています。

中国からこれに関して、タバコとの関連を研究した興味深い論文が発表されました。(Yu B, et al. Fertil. Steril. 101: 51- 57, 2014)
Yu先生(Guangzhou医科大学:広州医科大学)らのグループは、147人のヘビースモーカー(1日2パック以上 5年以上)と175人のノンスモーカーの不妊外来患者で以下の検討を行いました。
(画像をクリックして拡大・Table.1)
Table-1.-2014.5.20
(Table 1)Table 1. 2014.5.20

① 喫煙と精液中のニコチン代謝産物のコチニン(cotinine)の関係
② 喫煙と精液検査所見の関係
③ 喫煙とヒストン⇒プロタミンの置換の関係(ヒストン置換異常率)

コチニンの濃度は勿論ヘビースモーカーが高いことが判りました。
さらに、コチニン濃度が高いほど、精子運動率が低く・生存精子率が低く・精子濃度や総精子数も低いことが判りました。
喫煙との関係では、総精子数はヘビースモーカーが有意に少なく、ヒストン置換異常率は有意に高いことが判りました。
次に、このヒストン置換異常率をヘビースモーカーとノンスモーカーの中で精子濃度と精子運動率で層別に検討しました。
精液検査で正常の場合でも、ヒストン置換異常率はヘビースモーカーでは19.6±9.1%とノンスモーカーでの16.8±7.8%より有意に高いことが判りました。
同じヘビースモーカーでも、精子濃度が低い人や精子運動率が低い人はヒストン置換率異常が有意に高いことが分かりました。
この研究からも、喫煙は、百害あって一利なしです。

最近は、スモーカーが少しずつ減少していますが、未だにゼロにはなりません。
(大都市圏では減っていますが、地方都市ではまだまだです)
少なくとも、不妊に悩む男性にとって、禁煙は当然の取るべき行動であると思います。
常々思っていることですが、こんな事を書くぐらいなら(身体に毒であると認識しているならば)販売を中止すべきでしょう。
(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
Fig.-1-2014.5.20
(Fig. 1)Fig. 1 2014.5.20

せめて、精子に関しても、これぐらい直接的に悪影響がある事を示すべきでしょう。
(画像をクリックして拡大・Fig. 2)
FIg.-2.-2014.5.-20
(Fig. 2)FIg. 2. 2014.5. 20

「どの日にタイミングを取れば妊娠しやすいのですか?」「夫の年齢は妊娠しやすさに関係ありますか?」

この2つの質問は繰り返し尋ねられる質問です。

日本の中にはこれに答える大規模調査はありません。しかし、少し古いですが2つの質問に見事に応えた最も有名な論文を紹介しましょう。これまでに、多くの論分や著書で引用されています。Dunson DB, Colombo B, Baird D. Changes with age in the level and duration of fertility in the menstrual cycle. Hum Reprod. 27: 1399-1403, 2002

このイタリア人のグループは、782の自然妊娠を目指しているカップルの、月経周期とsexを行なった日(月経周期の何日目にsexしたか)それと妊娠の有無を合計5860周期にわたって調査しています。排卵日は基礎体温から推測しています。排卵日を0日として、その前4日にsexすれば-4日という事になります。
この結果、月経周期からみたsexの日と妊娠成立には、大変興味深い3つの結果が判りました。
20140216_1図1)図12014.2.16

①排卵日から6日前から排卵後2日までの9日間にしか妊娠のチャンスは無いこと(妊娠率5%以上を妊娠のチャンスとした場合)。
②排卵日よりも2日前(-2日)が最も妊娠率が高かったこと。つまり、基礎体温から見た場合は、排卵日の2日前のsexはお薦めです。
③妻の年齢が上がるほど、月経周期のそれぞれの日における妊娠率は階段状に下がること。

ここで、考えなければならないのは、夫の年齢です。

夫の年齢によって、月経周期での妊娠可能な期間は影響を受けるのかと言う疑問があります。これを解析した結果は妻の年齢が19-26歳、27-29歳,30-34歳では夫の年齢に関係なく-6日から±2日までが妊娠のチャンスがあるのですが、35-39歳の場合は夫の年齢は妻の年齢よりも5歳高くなると、妊娠のチャンスは-5日から+2日までの8日間と1日短くなる事が判りました。女性生殖器内での精子の寿命が短くなることが原因と推測しています。

さて、さらに解析を進めていきます。

妻の年齢と夫の年齢と月経周期での妊娠の確率を検討しました。妻の年齢別に、夫が同い年の場合と5歳年上の場合に分けて、どの日にsexしたら妊娠の確率がどのくらいあるかを調べました。

>20140216_2(図2a, b, c)図2 2014.2.16

これを見ると、妻の年齢が19歳から34歳までは夫の年齢が同い年でも5歳年上でも妊娠率に差がありませんが、妻の年齢が35-39歳の場合は夫が同い年の場合と比較して5歳年上の場合は妊娠率がグンと低くなるのです。

ここでも、精子力の35歳問題がすでに明らかになっていたのです。

この論文では残念なことに、年下の夫(姉さん女房)の場合は妊娠率がどう変化するかについては報告されていません。今後、さらに研究が進む分野だと思います。

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