ブログの読者の方から、こんな質問がありました。
『testosterone(男性ホルモン)とフェロモン(pheromone)の関係について教えてください- 男性ホルモンが上がると女性にもてるフェロモンが増えてモテモテになるのでしょうか?』
これは、困った質問です。というのはフェロモンの研究は主に昆虫や実験室の小動物を中心に行なわれています。ヒトにモテホルモンと巷で噂になっているフェロモンが存在するのかは、現在少しずつ研究が進んでいる段階ではっきりしたことは、解明されていないのが現状だからです。
そこで、PubMedという医学系のデーターベースにアクセスしてみました。キーワードはtestosteroneとpheromoneです。するとヒトの涙には化学シグナル物質があると言う論文が1番にヒットしてきました。
雑誌は、かの有名なサイエンスです。
Gelstein S, Yeshurum Y, Rozenkrantz L, Frumin I, Roth Y, Sobel N. Human tears contains a chemosignal. Science 331, 226-230, 2011
この論文について解説しましょう。
涙には2種類があります。眼の表面の乾燥を防ぐ目的で分泌されている液体と悲しいときに出てくる液体です。後者の液体が出てくるのは、ほ乳類ではヒトのみに知られています。
Gelsteinらは、悲しい映画を見て女性が流した涙を集めてきて、これが男性の情動に与える作用を研究しました。涙を流している女性を見ることからうける視覚(目からの)による影響ではなく、涙を嗅ぐことによる影響を検討したのです。
どうして、こんな研究をしたのでしょうか?
日本人とは違って(と言っても最近はこういった習慣を持った若者も増えていますが)西洋人は涙を流している女性を抱き寄せて、鼻と鼻がくっつくような距離で話しかけたりしますね。すると、鼻の近くに涙があるので、涙を嗅ぐことによる影響があるのではないかと考えたのです。(日本人にはない発想ですね)
まず、集めた悲しみの涙に独特のにおいがないか調べました。これには、鼻の下に、涙をしませた紙を貼った場合と生理食塩水をしませた紙を貼った場合で、においの違いを区別が出来るかを調べたのです。研究に協力した24人の男性はこの2つをかぎ分けることが出来なかったのです。つまり、悲しみの涙には特別なにおいは無いという事です。(画像をクリックして拡大・Fig.1)
FIg. 1 2013.10.29
次に、涙を嗅いだ後と生理食塩水を嗅いだ後で、同じ女性の顔(画像をクリックして拡大・Fig.2)を見て性的魅力をどの程度感じたかを調べました。
Fig.2 2013.10.29
すると、涙を嗅いだ場合は生理食塩水に比較して性的魅力を感じにくくなっていました。(画像をクリックして拡大・Fig.3)
Fig.3 2013.10.29
この原因はどこにあるのでしょうか?
著者たちは、唾液中のテストステロン(生理活性を持ったテストステロン)濃度に対する涙の影響を調べました。すると、涙を嗅ぐとテストステロンが低下する事が判ったのです。(画像をクリックして拡大・Fig.4)
Fig.4 2013.10.29
さらに、もっと研究は続きます。脳の機能を調べるfunctional MRIと言う特殊な検査で性的魅力を感じたときに活動性が高まる脳の部分を観察しました。すると、涙を嗅ぐと生理食塩水を嗅いだときに比べて活動性が低くなることが判りました。
女性の涙は、男性のテストステロンを低下させ・脳の性的な活動命令を出しにくくする作用があるのです。涙の成分のうちの何がこのような作用があるのかが判れば、反対に性的な魅力を相手に与える物質、すなわちフェロモンを突き止めることに繋がるかも知れません。
不妊に悩むカップルの場合は、ご主人はパートナーに悲しみの涙を流させるようではいけませんね。にこにこパートナーと子作りに励んでください。