精子が作られることも、全身の代謝活動の一環でありますので、腎臓の機能が悪くなれば、精液検査の結果も悪くなるのだろう事は、想像に難くないことです。
しかし、意外なことに、慢性腎臓病の重症度(極軽症のものから人工血液透析が必要な段階まであります)と精液検査の関連を調べた研究はほとんど有りません。
これに関して、スエーデンから、慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)の程度と「精子力」の関係を調査した論文が発表されています。(Lehtihet M, et al. Andrologia 2015; 47: 1103-1108)
慢性腎臓病の重症度は、2002年のNational Kidney Foundationの分類に従って判定しています。(表1)
これによれば、精液量・正常形態精子率・頭部形態異常精子率・頸部形態異常精子率の4項目以外の、全ての精液検査のパラメータと、副性器(精嚢や前立腺)の機能は、CKDのステージが進む程(腎臓の機能が悪くなるほど)悪くなる事が判りました。(表2)
やはり、腎機能も「精子力」に影響するのですね。
この原因を考えますと、腎機能低下の主な原因が糖尿病でありますので、高血糖による血管障害(血流障害)・酸化ストレスの増加(精子膜の脂質の障害やDNA損傷)・内分泌環境の変化(高プロラクチン血症・血中テストステロン濃度の低下)などが挙げられます。
それでは、腎機能が回復した場合はどうなるのでしょう。
腎移植を受けた場合の、精子力の変化についいては、次回説明する事にしましょう。