精子濃度が低いとか、精子運動率が低いとか、総精子数が少ないとか、精子の形が悪いとかの男性因子での不妊症に対して、顕微授精(ICSI)が行われるようになって、20年あまりが過ぎました。

そこで、当然の疑問に、
『男性因子のためICSIをすることにより誕生した子どもたちが成人になったときに、自分の父親と同じように不妊症に悩み、やはり顕微授精(ICSI)が必要になるのか?』
という事があります。

これに、対するヒントになる論文が出ました。
世界に先駆けて、顕微授精(ICSI)での妊娠例を報告したTournayeらのベルギーからの論文です。
Semen quality of young adult ICSI offspring: the first results. Human Reproduction,pp.1–10, 2016 doi:10.1093/humrep/dew245

2013年から2016年にかけて、以前に顕微授精(ICSI)によって誕生した男性54人(18歳から22歳)と自然妊娠により誕生した男性57人(18歳から22歳)を対象として、精液検査の結果・身長体重や外性器の状態・日常生活習慣(喫煙や飲酒など)を2群で比較しました。

この結果、顕微授精(ICSI)で誕生した男性の方が、精子濃度・総精子数・総運動精子数が有意に低い事が判りました。(図1)

fig1


精子運動率、精液量、正常形態精子濃度には差がありませんでした。

また別の解析では、顕微授精(ICSI)によって誕生した男性は、自然妊娠により誕生した男性に比して、WHOの精液検査の基準値(精子濃度1500万/ml・総精子数3900万)を下回る危険性が検討されました。これによれば、精子濃度大幅に増大することが報告されました。すなわち、精子濃度1500万/mlを下回る可能性は2.7倍に、総精子数3900万を下回る可能性は4.3倍になるとのことです。

この論文で大変重要なことは、この結果から、男性因子により顕微授精で誕生した男性は、父親と同じく精子形成障害を引き継いでいるのだ。さらに、顕微授精で誕生した男性の場合は、自分の父親がそうであったように、子どもを得るには顕微授精(ICIS)が必要になるのだ。と結論するには飛躍があります。

精子形成障害のある父親から顕微授精(ICSI)で誕生した男性の妊孕能に関して、充分な根拠と持った結論を導き出すためには、次のような検討が必要になります。

① 男性因子以外により顕微授精(ICSI)が行われて誕生した男性の精液検査結果の解析。
② 父親の精液検査結果と顕微授精(ICSI)により誕生した男性の精液検査結果に相関関係がある事(今回の検討では証明されなかった)の証明。
③ 今後、精子形成を左右するgenetic, epigenetic factorの解析。

実際に、顕微授精(ICSI)で誕生した男性の妊孕性に関する大規模データが出るには、これらの男性が挙児を試みてしばらく観察する必要があるため、あと5-10年は待たなければならないでしょう。

今後同様な研究成果が続々と発表されることと思われますので、目が離せない状況です。