今回は、中国の杭州市にある浙江大学から興味深い論文の紹介です。
Novel distance-progesterone-combined selection approach improves human sperm quality.
Kun Li, et al. Journal of Translational Medicine 16: 203, 2018
現在、ART(生殖補助医療)に用いる精子の選別には、比重によってわけるパーコール法が主流です。しかし、身体の中では女性の生殖器(膣→至急→卵管)を通過する間に、良い精子が選別されてきていると考えられていることから(図1)、この女性生殖器をまねたものを人工的に造りました(図2)。
A(膣に相当する)にパーコール処理した精子を入れて、左卵管(C- G)の中に精子を引き寄せるホルモンであるプロゲステロンが含まれたアガロースゲルをおきヒトの卵管内の様子を再現しました。右卵管(C-F)にはホルモンの入っていないアガロースをおいて比較対象としました。
精子を引き寄せるホルモンのある卵管のE2とホルモンの入っていない卵管D2へ泳いできた精子の状態を比較しました。
その結果、ホルモンがある卵管(E2)がホルモンの入っていない卵管(D2)よりも、正常形態精子率は有意に高く(図3)、DNA断片化率は有意に低くなりました(図4)。
以上から、ARTに用いる精子の選別には、有用であると結論しています。
大変、面白い結果ですが、使用された精子が健康成人のものであったため、実際の不妊症の患者さんのように精子の状態の悪い場合に有用か否かは不明です。
今後の、実際の臨床での使用経験の報告が楽しみです。
(獨協医科大学埼玉医療センター 泌尿器科 上村慶一郎)