これは、不妊カップルからよく質問される内容です。
今回は、女性の立場から少し文献を紹介しましょう。
喫煙・アルコール摂取・肥満は不妊の原因とされてきました。
特に、体外受精を行なう人を対象にした研究では、BMIが高い肥満女性は妊娠率が低く、アルコールを飲む女性は妊娠率が低下し、コーヒーをたくさん飲む女性は少ししか飲まない女性よりも良好胚到達率が低いことが報告されていました。
それでは、タバコを吸っていた人が禁煙する・アルコールを飲んでいた人が飲酒をやめる・コーヒーなどのカフェインを含む飲料を飲んでいた人がこれをやめると、妊娠力にどのような影響があるのでしょうか?
体外受精(特に顕微授精)は人工的な操作が多く主として男性因子のあるカップルに行なわれることが多いため、妊娠力を評価するにはこれを左右する因子が多すぎるので、もっと自然妊娠に近い人工授精を行なう患者カップルを対象にした他施設共同研究結果が発表されました。(Huang H, et al. Predictors of pregnancy and live birth after insemination in couples with unexplained or male-factor infertility.)
Huangらは、大学病院を中心とした多施設共同研究で人工授精を行なっている664カップル(原因不明不妊カップル)を調査し、4回以上の人工授精の結果で、妊娠が成立したか?生児を獲得できたか?ということと、カップルの女性の生活習慣について調査しました。
まず、カップルの女性の年齢・男性の年齢・人種・教育程度には、妊娠率に有意差はありませんでした。しかし、過去に妊娠したことがある人はそうでない人に比べて妊娠率は有意に高い結果でした。
女性側の危険因子としてまず、喫煙・カフェイン飲料・炭酸飲料・アルコールについて調査しています。(画像をクリックして拡大・Table 1)
table 1. 2013.9.24
意外な事に、喫煙は過去に吸ったことがない人も、現在喫煙中の人も、禁煙した人も妊娠率・生産率に差はありませんでした。カフェイン飲料・アルコールはいずれも、一度も飲んだことのない人に比べて、現在飲んでいる人の方が妊娠率も生産率も高く、さらにこれらを飲むことをやめた人はさらに妊娠率・生産率が良くなると結論しています。
炭酸飲料を飲むか飲まないかは、関係していないとの結論でした。
さて、そのほかの危険因子はどうでしょう。
日本ではなじみがないのですが、マリファナ・コカインも関係が無いとの結論でした。
さらに、職場の環境についても調査しています。
有機溶媒・鉛・ペンキ・殺虫剤・溶接の煙・麻酔ガス・化学療法薬・高温環境・振動・放射線暴露・コンピュータ端末・電磁場といった、過去に妊娠・生産率に影響があるとされた事柄は、いずれも関連は薄いと結論しています。
この論文の著者も述べていることですが、過去の多くの調査では、喫煙・アルコール・カフェインは妊娠・出産に良い影響はないと報告されています。ましてや、非合法のマリファナやコカインはもっと大きな影響があります。
この論文は、喫煙・コーヒー・アルコールをたしなんでいても良いと勧めているのでは無く、むしろこれらの習慣を中止することによって、妊娠力を上げることが出来るのであると、解釈すべきでしょう。
いやはや、前回にも書きましたが、疫学調査はサンプルが大きくなっても、結果の解釈には、工夫が必要です。