男性不妊外来に通院中の患者さんに尋ねると、実に様々な栄養補助食品(サプリメント)を服用しています。この中でも、ダントツに多いのが「マカ」であります。

マカはどんなサプリメントなのでしょう?

Lepidium meyeniiという学術名で呼ばれる植物の胚軸を乾かしたもので、古くからアンデスの高地に、滋養強壮剤として原住民に用いられてきた薬草です。乾燥した堅い胚軸を、粉末にしたりお湯で煮出したりしたエキスとして、用いられてきました。
南米各地をスペイン人が占領するに伴って、この植物の存在がヨーロッパに伝えられ、薬用に用いられるようになったのです。
さて、どんなところに生息するのでしょう。実は、ペルーのアンデスの中央部のJunin州のCarhuamayo地方と呼ばれる、標高4100mの高地に自生しているものなのです。(画像をクリックして拡大・Fig.1)
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Fig. 1 2013.8.27

この、厳しい環境に育つマカは大きく分けて、black, yellow, white macaの3種類があります。

そして、この中で滋養強壮に有用なのは、black maca(黒マカ)である事が知られています。


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(画像をクリックして拡大・Fig. 2)
Fig. 2 2013.8.27

ペルーからのレビュー論文(Gonzales GF Ethnobiology and Ethnopharmacology of Lepidium meyenii (Maca), a Plant from the Peruvian Highlands. Evidence-based Complementalry and Alternative Medicine 2012:193496. doi: 10.1155/2012/193496.)

実際に、標高4100mのCarhaumayoの住人を調査した結果、健康状態がマカの抽出物(エキス)を飲んでいる人が飲んでいない人よりも、40歳から70歳代の全ての年代で良好であった事が報告されています。(画像をクリックして拡大・Fig. 3)


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Fig.3 2013.8.27

いかにも精力を上げるのに役立ち、精子力も上げそうな気がするのですが、これまでに、動物実験ではどのような効果が照明されているのでしょうか?





 

Table-1-2013.8
Table 1に示しましたようにTable 1 2013.8.27、ラットやマウスやモルモットといった小動物では、精子数の増加や性行動の活発化などが報告されています。ウシのような大動物では、精子数と精子の質の向上が報告されています。さて、肝心なヒトの場合はどうでしょうか?

ヒトにおいては、ペルーでは古来から不妊の治療薬として用いられてきたようですが、現在マカが精液検査結果に影響を与えたとする論文は、ペルーからの1本しかありません。(Gonzales GF, et al. Improved sperm count after administration of Lepidium meyenii (maca) in adult men. Asian J of Andrology.3: 301-304, 2001)

しかも、たった9人のもともと精液検査で異常が無い人にmacaを4ヶ月服用してもらい、服用前の精液検査と比較したというものです。その結果は、精液量・総精子数・運動精子濃度・精子運動率が改善したと述べています。(画像をクリックして拡大・Table 2)
Table-2-2013.8
Table 2 2013.8.27
しかし、その解析方法・サンプル数から見て到底、科学的根拠になるものではありません。
もう一つ大事なことは、これまでのマカの動物実験の論文にせよ、ヒトに対する効果を検討した論文にせよ、いずれもペルーの4000m級の高地で産生されたマカを用いているのです。

現在、日本国内で流通しているマカは、ほとんど低地栽培のマカであり、しかも多くがblack maca(黒マカ)ではありません。

すなわち、現時点ではマカが精液検査を改善したり、精子力を改善するという事を支持する根拠はありません。もう少し、慎重な解析結果がでてから、お使いになった方が賢明でしょう。