これは、不妊治療中の患者さんからよく尋ねられる質問です。
精液検査の中で、禁欲期間と関係しているのは、精液量(出さなければ増えます)、精子濃度(出さなければたまります)、死んだ精子数(古くなれば死滅した精子の数が増えます)、総運動精子数(とりあえず動いている精子数は増えます)です。これに比較して精子運動率(いつまでも生きているわけではありません)は減少します。

これまで、射精液中の総運動精子数が最大になるのは禁欲3-4日なので、これが人工受精の患者さんにも当てはめられてきました。

しかし、精子の通り道(精路)に精子が留まる期間が長いほど、活性酸素の影響を受けて精子の質(精子力)が落ちることが判明してきました。そこで、どのくらいの禁欲期間(セックス以外にもマスターベーションで射精はしますので)と言うより無射精期間が人工授精による妊娠には最適なのかの検討が行なわれました。

Paul B Marshbumらの論文(Fertil Stertil 93: 286, 2010)によれば、かれらはCarolinas Medical Center Women’s Institute (Charlotte, NC, USA)の372カップルの866回の人工授精周期について解析を行ないました。
無射精期間を、2日以下・3-5日・6日以上の3つの群に分けて比較すると、大変興味深い事が判ったのです。
なんと、人工授精による妊娠率は2日以下の無射精期間が、それ以上よりもずっと良好だったのです。(画像をクリックして拡大・Table.1)

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Table 1. IUIと禁欲期間

さらに、無射精期間と人工授精用に調整前のサンプルの総運動精子数と人工授精用に調整済みのサンプルの総運動精子数と妊娠率に関して検討しました(画像をクリックして拡大・Fig. 1)。

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Fig. 1 総運動精子数と禁欲期間

すると、無射精期間が長くなると少しずつ人工授精用に調整済みのサンプルの総運動精子数は増えましたが、人工授精による妊娠率は低くなったのです。

これは、2つのメッセージがあります。

人工授精の時には禁欲は2日以下で良い。
つまり排卵誘発するために人工授精の30-36時間前にhCGを打つのですが、その後に射精(セックス)しても良いと言うことです。

精子力は数だけでは評価できない。見かけの数は増えても、妊娠にはつながりません。

これからは、溜めないで精子力増強です!