肥満と男性不妊

不妊外来患者さんからよく尋ねられる質問に「肥満は不妊と関係ありますか?」という問いがあります。
漠然と、現在の健康志向やメタボリックシンドロームが様々の成人病の原因になっている事から、「はい、関係あると思います」と回答していますが、根拠はどうなっているのでしょうか?
まず、肥満の診断基準です。太っていれば肥満なのですが、これでは国際比較や診断・治療介入ができません。そこで、日本肥満学会が発表したBMI(Body Mass Index)を用いた、肥満の診断基準(2011年に改訂された)を見てみましょう。(画像をクリックして拡大)

Table-1Table 1
BMI 25以上は肥満になるわけです。日本では、肥満を4段階に分けて評価していますが、諸外国では肥満はBMI 25-29.2: overweightとBMI 30以上: Obeseの2段階分類が一般的です。

 

 

 

 

 

 

さて、肥満の人の割合は、どんなものでしょうか? 米国のNational Center for Health Statisticsのデータでは、男性 20-39歳で33.2%と報告されています。(画像をクリックして拡大)

Fig-1Fig 1
日本では、厚生労働省の「日本人の肥満」ホームページで紹介されているデータを参考にすると、20-29歳で21.3% 、30-39歳で28.6%と報告されています。

 

 

 

 

日本人は、アメリカ人に比較して肥満の割合は低いようです。(画像をクリックして拡大) FIg.2

Fig.2
もう一つ、注目すべき点は、日本では同年代の女性の肥満割合は、20年前・10年前と比べて減少しているのに、男性ではそれぞれの年齢階層で12.8%から16.6%そして21.3%へ、21.6%から24.2%そして28.6%へ増加しています。 健康意識の性差の表れと考えられます。

 

 

 

 

 

それでは、肥満が男性不妊に与える影響は、いかがなものでしょうか?

昨年のSpematogenesis 2: 253-263, 2012にPalmer NO, et al. Impact of obesity on male infertility, sperm function and molecular composition.というレビュー論文が掲載されました。 肥満の男性はそのパートナーが肥満で無い場合でも、生産率(live birth rate)が低く、生殖補助技術(ART)を行なって妊娠・出産を試みた場合でも、妊娠成立しない割合が増加することが、報告されました。(画像をクリックして拡大)

Fig.3Fig.3
肥満の精液検査所見に与える影響はどうでしょうか? 23の報告を集めたメタアナリシスでは、精子濃度は15論文で、減少8論文で不変でした。精子運動率は7論文で減少、12論文で不変、4論文で評価無しでした。正常形態精子率は7論文で減少し9論文で不変、7論文で評価無しでした。これからすると、精液所見上は、精子濃度は減少するとの報告が多いが、運動率と形態に関しては、一定の結果でないということです。

この論文では、精子DNAのメチル化と肥満の関連は、他の組織では明らかになっているが、精子でのメチル化の変化に関しては、未だ定かで無いとしています。また、精子形成過程で必要な、ヒストンのアセチル化が早期に起こり、これにより精子DNAが損傷されると述べています。

このDNA損傷に関しては、Dupont C, et al. Obesity leads to higher risk of spem DNA damage in infertile patients. Asian J Androl. 2013. Jun 24. Epubで、BMIの高い男性不妊患者さんの、精子DNAの断片化率は肥満で無い男性の2.5倍であったと報告しています。

やはり、肥満は精子DNAに損傷を与えているようです。この、DNAが断片化した精子は、顕微授精の際に流産率が上昇するため問題になります。

こうしてみると、肥満は男性不妊にとって、リスクファクターになるという認識で良いと考えられます。また、生まれてきた我が子を、養育するためには父親として健康でいる必要があります。 子の福祉のためにも、肥満は解消するようにしたいものです。

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