精液検査で精子の質はわかりますか?

精液検査(一般精液検査・ルーチーン精液検査)では、精液量(精液の容量)・精子運動率(運動している精子の割合)・正常形態精子率(染色して精子の頭部や尾部を顕微鏡で調べた、正常な形をしている精子の割合)が測定されます。
また、精子の運動を機械で解析して、精子の運動の直進性(まっすぐ進む精子の割合)や精子速度(精子が進み速度)を計測する場合もあります。
精液量が少ないと、精子濃度が少ないと、正常な精子の形が少ないと、自然妊娠が起こりにくいことが知られています。そこで、WHOは大規模調査をして基準値(目安の値)を提示しました(2010年)。

Table_20170728

しかし、不妊カップルが増加している現在では、不妊治療法を選択する上で参考になる、もっと詳しい精子の「質」の検査法が求められています。
この代表が精子のDNA断片化率(DNA Fragmentation Index: DFI)です。
精子の究極の目的は、卵に受精して男性パートナーの遺伝情報であるDNAを運び込む事です。この、精子頭部にDNAは2本の鎖がらせん構造になって格納されています。2本の内の1本に傷がつくと遺伝情報は正確に伝えることが出来なくなってしまいます。
2014年に出されたレビューでも、DFIの高いパートナーの精子を用いた精子では、IVF/ICSI(体外受精)で妊娠率は低下して、流産率が上昇する事が明らかになりました(表1,2:画像をクリックすると拡大表示されます)。

Table2

Table3

一般精液検査のみではなく、もう一段進んだ精子の質の検査が重要だという事です。
このDNAに傷がついているかいないか(DNA断片化率)を調べる方法が、精子クロマチン構造試験(Sperm Chromatin Structure Assay: SCSA)と呼ばれている検査法です。

我々の施設(獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンター)でも、たくさんの不妊症に悩むカップルで測定しています。原因不明不妊と言われている患者さんカップルのご相談をお待ちしています。

男性不妊専門医の局在

2017.07.08 | お知らせ, 新知識

生殖医療専門医(泌尿器科)の数が、51人ととても少ない事は、前回のブログでお示ししました。
この事以上に、問題になっているのは、その局在です。
図を診ていただくと、一目瞭然ですが、こんなに偏っています。
専門医が1人も存在しない県どころか、地域があります。
この、偏在を解消すべく、獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンターでは、広く研修希望医を集めて育成に努めています。

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希少価値の男性不妊専門医

2017.07.08 | 新知識

生殖医療専門医について
一般社団法人日本生殖医学会が認定している生殖医療専門医(名誉専門医を含む)は合計649名存在しています。
この中で、主に男性因子の不妊患者(男性不妊患者)を扱う泌尿器科医はわずか51名(7.9%)に過ぎません。
では、なぜこれほど少ないのでしょうか?
これには、様々な事が考えられています。
① 患者数が少ない。
② 男性不妊を教えてくれる施設が少ない。
③ 男性不妊に関心が無い。
①は当てはまりません。不妊症のカップルの約半数に男性因子があるのですから。
②は大きな原因となっています。保健医療を主に行っている大学病院で、不妊治療(自費の部分が多い)も行っている施設は極限られています。このために、初期教育の場である大学病院で、実際の患者に触れる事が出来る施設が少ないため、教育が出来ていないのが現状です。
③実際の患者さんを、目の前で診ることが出来る環境がないと、疾患のイメージがつかみにくく、興味を持つ医師が少なくなってしまいます。
教科書のみから得る知識だけでは、臨床的な興味はわきにくいものです。
これらを考え合わせて、我々の施設(獨協医科大学越谷病院 リプロダクションセンター)では、男性不妊のトレーニングが出来る施設として、優秀な医師の育成に努めています。

「どの泌尿器科の先生に相談したら良いのですか?」という質問をよく受けます。
生殖医学会のホームページには、専門医の一覧がありますが、見にくいので泌尿器科医のみを抽出しましたので、参考にしてください。データは2017年4月1日現在ものです。

表) 生殖医療専門医(泌尿器科)※表をクリックすると拡大表示されます。
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顕微授精(ICSI)により誕生した男性の精液検査所見は?

精子濃度が低いとか、精子運動率が低いとか、総精子数が少ないとか、精子の形が悪いとかの男性因子での不妊症に対して、顕微授精(ICSI)が行われるようになって、20年あまりが過ぎました。

そこで、当然の疑問に、
『男性因子のためICSIをすることにより誕生した子どもたちが成人になったときに、自分の父親と同じように不妊症に悩み、やはり顕微授精(ICSI)が必要になるのか?』
という事があります。

これに、対するヒントになる論文が出ました。
世界に先駆けて、顕微授精(ICSI)での妊娠例を報告したTournayeらのベルギーからの論文です。
Semen quality of young adult ICSI offspring: the first results. Human Reproduction,pp.1–10, 2016 doi:10.1093/humrep/dew245

2013年から2016年にかけて、以前に顕微授精(ICSI)によって誕生した男性54人(18歳から22歳)と自然妊娠により誕生した男性57人(18歳から22歳)を対象として、精液検査の結果・身長体重や外性器の状態・日常生活習慣(喫煙や飲酒など)を2群で比較しました。

この結果、顕微授精(ICSI)で誕生した男性の方が、精子濃度・総精子数・総運動精子数が有意に低い事が判りました。(図1)

fig1


精子運動率、精液量、正常形態精子濃度には差がありませんでした。

また別の解析では、顕微授精(ICSI)によって誕生した男性は、自然妊娠により誕生した男性に比して、WHOの精液検査の基準値(精子濃度1500万/ml・総精子数3900万)を下回る危険性が検討されました。これによれば、精子濃度大幅に増大することが報告されました。すなわち、精子濃度1500万/mlを下回る可能性は2.7倍に、総精子数3900万を下回る可能性は4.3倍になるとのことです。

この論文で大変重要なことは、この結果から、男性因子により顕微授精で誕生した男性は、父親と同じく精子形成障害を引き継いでいるのだ。さらに、顕微授精で誕生した男性の場合は、自分の父親がそうであったように、子どもを得るには顕微授精(ICIS)が必要になるのだ。と結論するには飛躍があります。

精子形成障害のある父親から顕微授精(ICSI)で誕生した男性の妊孕能に関して、充分な根拠と持った結論を導き出すためには、次のような検討が必要になります。

① 男性因子以外により顕微授精(ICSI)が行われて誕生した男性の精液検査結果の解析。
② 父親の精液検査結果と顕微授精(ICSI)により誕生した男性の精液検査結果に相関関係がある事(今回の検討では証明されなかった)の証明。
③ 今後、精子形成を左右するgenetic, epigenetic factorの解析。

実際に、顕微授精(ICSI)で誕生した男性の妊孕性に関する大規模データが出るには、これらの男性が挙児を試みてしばらく観察する必要があるため、あと5-10年は待たなければならないでしょう。

今後同様な研究成果が続々と発表されることと思われますので、目が離せない状況です。

中学生以下では、がん治療前に精子凍結保存は出来ないのでしょうか?

2016.03.07 | 新知識, 未分類

精通現象(夢精:眠っている間に性的な夢を見て射精してしまう現象や、マスターベーションの経験)が無いために、がん治療前の精子凍結保存は出来るのかどうかという質問をたびたび受けます。
答えは、YESです。
思春期が来る途中であれば、精巣(睾丸)内では射精はまだ無くても精子形成が始まっていることがあるのです。
ですから、あきらめないでまず相談です。
最近。こんな患者さんがおられました。
14歳 男子(A君)
急性骨髄性白血病に対して化学療法受け、一時的は治癒判定を受けるも、再発したためさらに強い抗がん剤治療の予定が示され、同時に同種造血細胞移植(骨髄移植や臍帯血移植)を行うため、全身放射線照射予定され、治療後の無精子症の確立が高いことが判ったため、紹介受診されました。
しかし、A君は今までマスターベーションをしたこともないし、夢精も経験していないとの事でした。
お父様を含めて(このときは父親の役割は大切です)、精子凍結保存法について話し合いました。
1.マスターベーション教育をする
2.精巣精子採取(TESE)を試みる
2つのオプションを示した結果、TESEを選択されました。
そこで、麻酔下の援助の元に緊急TESE(microdissection TESE; MD-TESE, micro TESE)を行い、顕微授精10回分ほどの精巣精子を凍結保存しました。普通のTESEでは精子回収が出来なかったためMD-TESEに切り替わりました。(子供のトラウマを最小限にするために全身麻酔が望ましいです)
その結果、精巣精子を回収することに成功しました。
元々の病気(急性骨髄性白血病)の治療が優先されるのは当然ですが、治癒確立が極めて高いので、出来るだけその後の事も患者さん本人と両親を交えて話し合う必要があります。このような機会(場所)を獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンターでは提供できていると思います。
大切なことは、まず専門家への相談です。
獨協 リプロで検索してください。
獨協医科大学越谷病院・リプロダクションセンターのサイト

がん患者さんの生殖に関して-3

2016.03.03 | 新知識

AYA世代の男性がん患者さんの妊孕性温存(次世代を作る能力を残しておく)ための、第一選択は精子凍結保存ですが、実態はどうなっているのでしょうか?
国内には、大規模な研究はありませんので、外国のデータを示しましょう。

Sperm cryopreservation in adolescents and young adults with cancer: results of the French national sperm banking network (CECOS). Fertil. Steril 103: 478-486, 2015

フランスで行われた、AYA世代の男子の精子保存の実態に関する報告です。
今回の研究組織であるCECOSに参加した23カ所の精子凍結保存施設からの4345例の解析結果です。
対象となった疾患は、前回のブログに書きましたように、悪性リンパ腫40%、白血病15%、胚細胞腫瘍 24%、悪性骨腫瘍10% 軟部組織肉腫3%、その他の癌2%、中枢神経系腫瘍2%、その他4%となっています。
これらは、原則として全て、治療開始前に精子凍結保存の説明がなされ、実際に凍結保存されています。
対象となった疾患の変遷は、Fig1 1Aに示されているように、はじめは悪性リンパ腫がほとんどですが、次第に胚細胞腫瘍や白血病が増加してきています。

Figure1
Fertil. Steril 103: 478-486, 2015を改変

精子凍結保存の年齢分布では(Fig. 1 B)興味深いことに、14歳以下の男子で精子凍結保存がなされたのは1984年からなので、そう古いことではないのです。
精子採取方法は、マスターベーションが基本ですので、最も若いマスターベーションでの精子回収・精子凍結保存の出来た男子の年齢は12歳であったと報告しています。
さらに、興味深いのは血液がん患者さん(悪性リンパ腫+白血病)と胚細胞腫瘍を分けて考えた場合、年代別にそれぞれのがん患者さんの中でどのくらいの割合で精子凍結されたかを示している点です。(Fig.2 )

Figure.2

なんと、2005年時点では、15歳以上であれば血液がん・胚細胞腫瘍の90%以上で精子凍結保存がなされています。
10歳-14歳の男子でも、1984年以降徐々に精子凍結保存が増加していることが判ります。

そして、極めつけは採取出来た精液の検査結果です。(Table-1)
意外と良好であることが判ります。
我々の、リプロダクションセンターでのデータはもう少し症例数が集まれば、報告しましょう。

Fig.1 疾患別・年齢別 精子凍結保存時の精液所見
Tabel.1
Fertil. Steril 103: 478-486, 2015を改変

がん患者さんの生殖について-2

2016.03.02 | 新知識

AYA世代の男性がん患者さんの精子保存はどうなっているのでしょうか?

AYAとは、adolescent and young adultsの略で、思春期から20歳以下の若年の世代を代表するネーミングです。
以前のブログで年齢別のがん患者数を示しましたが、この中でAYA世代の男性がん患者さんの生殖について、考えてみましょう。

http://maleinfertility.jp/blog/?p=1711

男性では、血液がん・中枢神経系のがんが多いことが示されていましたが、これらの患者さんは、30年前であれば命を救うことが困難な事が多かったのですが、最近ではかなり高い確率(おしなべて言えば80%以上)で治癒することが出来る様になりました。
具体的には、Fig. 1に示すように、年代を経るに従って、治癒する割合が増加してきているのです。

Fig. 1 2016.3.2

すると当然、これらの世代が子供を欲しいと考えた時に、生殖の問題がクローズアップされてきます。
男性の場合であれば、治療開始前の精子保存が第一選択になります。
この事に関する、大規模研究については、11歳から20歳の男性がん患者さんに関する、フランスのデータを次回お知らせいたします。
対象となったのは4345例のAYA世代の男性がん患者さんです。その、がんの種類を示しておきましょう(Fig. 2)。
Fig. 2 2016.3.2

「がん患者さんの生殖に関して」連載開始のお知らせ

2016.02.09 | お知らせ, 新知識

これからしばらくの間は、がん患者さんの生殖に関して昨日開催されました、「がんと生殖に関するシンポジウム 2016」で取り上げた話題をもとに、解説してゆきましょう。(Fig. 1)(画像をクリニックするとPDFでご覧になれます)

がん生殖シンポ2016

このシンポジウムは日本がん・生殖医療学会の活動の一環として、2012年から1回/年開催されているものです。今年のテーマは、これまで余り取り上げられることの無かった、-男性がんと生殖機能の温存を考える-としました。この中で、以下の5つのテーマにしたがって、発表が行われました。(Fig. 2)(画像をクリニックするとPDFでご覧になれます)

がん生殖シンポ2016_2

1.男性がんによる生殖機能低下のメカニズム
がん治療による性機能低下・抗がん化学療法や放射線療法による精子形成能障害の面からの解説。

2.男性がんによる性機能障害への対策
がん治療による射精障害患者さんへの対策・ARTの応用・外科的治療法についての解説。

3.男性がんによる精子形成能低下への対策
がん治療による精子形成能低下の予防法・精子凍結保存時に問題となる耐凍能・精巣組織の凍結保存の可能性についての解説。

4.精子凍結保存のネットワーク
実際に、精子凍結を行っている施設から、現状とその問題についての解説。

5. 心理支援 
がん生殖医療カウンセリングの取り組みの―男性がん患者の精神的サポートを考える―カウンセリングの現状について解説していただきます。

これからの、連載をお読みいただければ、男性がん患者さんに役に立つ情報が満載です。

お楽しみに

「どんなものを食べると精液検査に悪い影響があるのですか?」その1

これは、不妊に(特に男性不妊に)悩むカップルからよく尋ねられる質問です。
特に、魚がよいのか。肉がよいのか。などなどです。
これに対する答えは十分なデータがありません。
しかし、最近ハーバード大学から興味深い報告がなされました。
Processed meat intake is unfavorably and fish intake favorably associated with semen quality indicators among men attending a fertility clinic.
Afeiche MC,et al. J Nutr. 2014,144:1091.

彼らは、Massachusetts General Hospital Fertility Centerを受診した、男性不妊患者155人を対象にして、食事と精液検査所見を比較しました。
この中で、加工した赤身の肉・加工しない赤身の肉・赤身の魚・家禽肉・白身の魚について詳細な検討を行っています。
それぞれはどんな肉を指すかと言いますと、つぎのようになります。
加工した赤身の肉(processed red meat):ハンバーガーのパテ・ホットドッグ・ベーコン・サラミやボローニャソーセージ
加工しない赤身の肉(unprocessed red meat):牛肉・豚肉・ラム・ハムなどで、サンドウィッチや副菜や主菜として食べたもの
家禽肉(poultry):チキンや七面鳥などで、主菜やサンドウィッチとして食べたもの
内臓肉(organ meat);牛・豚・チキン・七面鳥の肝臓
赤身の魚(dark meat fish):マグロ・サケ
白身の魚(white meat fish):鯛・鱈
甲殻類や貝(shellfish):エビ・ホタテ

まず、肉食と摂取される栄養素のうちで、脂質とタンパク質に注目して分析しました。(画像をクリックして拡大・Table 1)
Table1
table1

すると、肉の摂取量の多い人は、総摂取カロリーが高い傾向がありました。
さらに、飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸の割合が高い傾向がありました。しかし、多価不飽和脂肪酸の割合は肉の摂取量の影響を受けていませんでした。
トランス脂肪酸・ω-3脂肪酸・総エネルギー摂取量に占める動物性脂肪やタンパク質の割合(特に動物性タンパク質の割合)が有意に高い傾向がありました。
さらに、著者たちは食生活を2つに分類しています。
Prudent pattern:野菜・果物、全穀物、鶏肉、魚をベースにした良識ある賢明な食生活パターン
Western pattern :赤身肉や加工肉、飽和脂肪、糖分を多く摂る欧米型食生活パターン
すると、肉の摂取量の多い人は2つの食生活のパターンともスコアが高い傾向にあったのですが、よりWestern patternが強くなる傾向がありました。

次に、肉食と精液所見の関係を調査しました。(画像をクリックして拡大・Table 2)
Table2
table2

すると、肉の総摂取量は影響を与えませんでしたが。赤身の加工肉の摂取が増えるほど正常形態精子率が低下しました。
加工していない、赤身の肉の摂取量は精液所見に影響を与えませんでした。
内臓肉を食べる人の方が、食べない人より正常形態精子率が有意に高い事が分かりました。家禽類の肉の摂取量は精液所見に影響を与えませんでした。

さらに、魚肉についても解析しています。(画像をクリックして拡大・Fig. 1)

Fig.1
fig1

1週間に魚を食べる回数が多くなるほど、総精子数・精子濃度・精子運動率・正常形態精子率はよくなる傾向にある事が分かりました。

魚肉の種類についても調査しています。(画像をクリックして拡大・Table 3)
Table3
table3
赤身の魚肉の摂取量が多いほど、総精子数・正常形態精子率は有意に高いことが分かりました。また、白身の魚肉の摂取量が多いほど、正常形態精子率が高いことも分かりました。しかし、甲殻類の摂取は精液所見に影響がありませんでした。

この論文からは、肉食の場合は、摂取量が増えるほど摂取される脂質・タンパク質の種類が偏る傾向がありましたが、総摂取量と精液検査の関連は明らかではありませんでした。赤身の加工肉は避けて、少しは内臓肉を食べ、出来れば魚肉の摂取を増やした方が、精液所見にはよい方に作用する可能性があると考えられます。
しかし注意しなければならないのは、これは横断的疫学調査であり、食生活を変えれば精液所見がどのように変化をするかを見た研究(介入研究といいます)ではない点です。
今後の、研究の進歩が待たれるところです。

ここで、もう一つ注意しなければいけないのは、参加者の大多数(83%)が白人のアメリカ人であると言うことです。日本人は、世界に冠たる雑食人種です。
日本人のデータはありませんので、現在我々が調査を進めています。
後3ヶ月ほどで調査が終わりますので、半年後ぐらいにはその成果をお見せできると思います。ご期待ください。

精巣精子はすぐ顕微授精?それとも凍結保存して顕微授精?

Microdissection TESE (MD-TESE:顕微鏡下精巣精子採取術)について説明する時によく尋ねられる質問です。
「精巣精子が採取できたとして、これはすぐに使用する方が良いのですか?それとも凍結保存して使っても良いのですか?」
閉塞性無精子症の場合は、TESEで精子採取が100%可能ですから、採取できた精子をすぐに使用する顕微授精(fresh TESE-ICSI)で良いと考えられます。
なぜならば、採取直後からほぼ全ての症例で、運動性のある精巣精子を探し出すことが出来るので、これを確実に顕微授精(ICSI)に用いることが出来るからです。

これに対して、精子形成障害による無精子症(azoospermia due to spermatogenic dysfunction : ASD; 以前には非閉塞性無精子症: nonobstructed azoospermia; NOAと呼ばれていた)の場合はどうでしょうか。精巣精子が採取できる確率は40-50%です。裏返して言えば成熟精子は50%以上で採取できないことになります。
それなら、MD-TESEに合わせて採卵している場合は、その卵は使用する事が出来なくなり、卵は破棄される事になります。そうでなければ、授精率・妊娠率ともに極端に低い未熟精子ないしは円形精子細胞などを、いわば無理矢理顕微授精することになるのです。
採卵という女性の身体に大きな侵襲のある処置が、無駄になるのは出来るだけ避けなければなりません。そこで、精巣精子が採取出来た場合はこれを凍結保存すれば、将来の顕微授精に備えることが出来ます。つまり、顕微授精に使用出来る精子の確保を確認してから、採卵にかかれば良いので、無駄な採卵をなくすことが可能になるわけです。

さて、この凍結保存精巣精子を用いた顕微授精と新鮮精巣精子を用いた顕微授精に、受精率・妊娠率に差があるのでしょうか?
これに対する回答はこれまでに、少数の報告例でのみなされてきました。従って信頼性(エビデンスレベル)が低いかもしれなかったのです。
最近この論争に現時点で結論を出す論文が出ました。(Ohlander S, et al. Fertil Steril 101: 344-349, 2014)
これは、メタアナリシスと言う統計分析法を用いています。具体的には、これまでに報告されている論文の内で、ある基準に合致するもののみ(エビデンスレベルの高いものを中心に)を集めて、解析しなおしたものです。
これまでの224論文を詳しく調べて、基準に合格した11論文について解析しています。
その結果は、ASDの場合は新鮮精巣精子を用いても、凍結保存精巣精子を用いても、妊娠率と受精率に差が無いという結果でした。(画像をクリックして拡大・Fig. 1, 2)
FIg 1 2014.9.15
Fig1_20140915
Fig. 2 2014.9.15
Fig2_20140915

すると、女性に対する優しさからは、凍結保存精巣精子を用いた方が良いことになりますね。
我々の施設では、現在この論文の追試を開始するところです。
結果が出ましたら、再度ご報告しましょう。

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