「読売新聞 15日付け 夕刊 からだ面」に紹介されました.

8月15日発売の読売新聞 夕刊 からだ面に「男を維持する『精子力』」が紹介されました。
ますます、「精子力」という言葉は、認知されつつあります。yomiuri 001

悪性腫瘍治療後の精子形成

悪性腫瘍の患者さんの精子形成はどうなっているでしょうか?

「悪性腫瘍(がんや肉腫)そのものの治療のことで精一杯で、精子形成や妊孕性のことなんか考えられない。」と言う患者さんが多いでしょう。しかし、治療法の進歩で、完治する悪性腫瘍がどんどん増えてきています。とくに、生殖年齢で悪性腫瘍に罹った男性にとっては、自分の妊孕性(こどもを作る能力)について無関心ではいられません。

2つの疑問が浮かびます。

①治療開始前から精子形成は悪いのでしょうか?
②治療(抗がん剤や放射線照射)が精子形成に影響するのでしょうか?

まず①についてです。

悪性腫瘍の患者さんの精液検査をした論文を調べてみました(Chung K, et a. Sperm cryopreservation for male patients with cancer: an epidemiological analysis at the University of Pennsylvania. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 113 (suppl 1): S7-S11, 2004)。

すると、精巣がんでは治療開始前に28%の患者さんが乏精子症でした。男性不妊患者さんでは、精巣がんの患者さんの頻度が高いことが知られています。ホジキンリンパ腫では25%が、白血病では57%が、消化器がんでは33%の患者さんが、乏精子症ないしは無精子症でした。これは、一般の乏精子症や無精子症の頻度よりも数倍高いことから、悪性腫瘍そのものが精子形成に影響を与えていると考えられています。

しかし、どういうメカニズムで精子形成に影響を与えるかに関しては、残念ながら未だに定説はありません。

次に②についてです。

精巣は骨髄と同様に、活発に細胞分裂をして新しい細胞(精子)を作り出しています。抗がん剤や放射線照射は、細胞分裂を阻害することが知られていますので、精子形成が障害される事は周知の事実です。では、治療後に精子形成は回復するのでしょうか。

精巣がん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、膀胱がん、前立腺がん、甲状腺がんの患者さんについてまとめたものがTable 1です。(Trottmann, et al. Semen quality in men with malignant diseases before and after therapy and the role of cryopreservation. Eur Urol 52: 355-367, 2007)(画像をクリックして拡大・Table 1)
スライド1
Table-2013-0814
精巣がんの場合は、抗がん剤治療後にかなり精子形成は戻ってきます。しかし、精巣そのものに放射線を照射した場合は、3Gyの一回だけでも精子形成はグンと低下します。

ここで重要なことは、少ない量を分けて照射する(分割照射)方が、精子形成には重大な影響を及ぼすという事です。

リンパ腫の治療は多種類の抗がん剤の組み合わせで行ないますが、ホジキンリンパ腫に対する抗がん剤の方が非ホジキンリンパ腫に対する抗がん剤よりも、精子形成に悪影響があります。

さらに重要なことは、リンパ腫や白血病の患者さんの治療で用いられる、骨髄移植ですが、cyclophospamideのみの使用であれば精子形成には大きな影響はないのですが、全身放射線照射をした場合は、精子形成に甚大な障害があるということです。

初期の膀胱がんでは、内視鏡手術の後に膀胱内に再発を防ぐために、MMCやBCGを注入するのですが、BCG注入により乏精子症になると言う報告があります。
前立腺がんの放射線治療のなかで最近急速に広まっているのが、前立腺組織内に放射線を放出する線源を埋め込む、密封小線源治療です。この治療法は精子形成に影響ないようですが、体外から前立腺部に放射線照射をする方法では、精子形成は低下すると報告されています。
骨肉腫の抗がん剤治療は、強い精子形成障害があり、治療終了後長期間精液所見の悪化があります。同じ肉腫でもEwing肉腫などの軟部組織肉腫に対する抗がん剤治療の場合は、治療後に高い割合で精子形成は正常化します。
放射性同位元素131Iを用いた甲状腺がん治療は、一旦は全身を131Iが循環しますが、精子形成には影響はありません。

こうしてみると、治療開始前に精子が採取出来るのであれば、精子の凍結保存をすることが大切である事が判りますよね。

医療従事者の場合は生殖年齢の患者さんであれば、精子凍結保存の話を必ずする必要があります。患者さんの場合は、悪性腫瘍の治療のことで精一杯でしょうが、主治医と相談して精子凍結保存を、積極的に行なって欲しいと切に願うものです

m3.comにMumps精巣炎と不妊に関して掲載されました

8月8日付けのm3.comの臨床ダイジェストに、アンドロロジー学会で発表した、ムンプス精巣炎と男性不妊に関する内容が掲載されています。

「日刊ゲンダイ」に掲載

こんにちは。
事務局からのお知らせです。

本日(8/13)発売の「日刊ゲンダイ」に「精子力」の記事が掲載されています。

『男を維持する「精子力」』好評発売中!

yokohama_2013:06:29_02

写真は、日本抗加齢医学会(6月、横浜)の書店販売の様子。

うつ病治療薬で「精子力」低下

男性不妊外来の患者さんで、抗うつ薬を処方されている患者さんが多いのに気づいていました。また、最近ちょくちょく、抗うつ薬の精子力に対する影響について、患者さんから尋ねられますので、調べてみました。

まず、うつの患者さんはどのくらいいるのでしょうか?

これには、公式な臨床統計はないため正確な答えが無いのが現状です。

唯一あるのは、厚生労働省が3年毎にまとめている、「患者調査」の結果をまとめなおしたものです。

今回参考にしたのは、本川裕氏による患者調査図録です。これによれば、37万人余りの男性患者が存在する事になります。ここで、注意が必要な点があります。(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
Fig-1-2013.8
Fig 1. 2013.8.11

厚生労働省の調査方法は、10 月中旬の3 日間のうち医療施設ごとに定める1 日を調査の時期とし、総患者数は以下の算式により推計をしたものである。

総患者数=入院患者数+初診外来患者数+再来外来患者数×平均診療間隔×調整係数(6/7)と言う点です。すなわち、患者数の全国規模の集計ではなく、あくまで医療機関を受診している患者数からの推計であるという点です。

また、本来違う疾患である、うつと躁うつ病を含む気分「感情」障害患者数を推計しているものであり、うつ病のみの統計は存在しません。

この、図表から見る限り1996年と比較して2011年には、患者数は倍増しています。

さて、これらの患者さんにはどのような治療がなされているのでしょうか?

十分な休養・薬剤治療・精神用法が組み合わされて行なわれます。この中の薬剤治療で抗うつ薬として、広く用いられているのはSSRI(選択的セロトニン再吸収阻害薬)・SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再吸収阻害薬)・NaSSA(ノルアドレナリン作動性、特異的セロトニン作動性抗うつ薬)・三環系抗うつ薬・四環系抗うつ薬の5種類があります。

これまでには、SSRIが射精障害を引き起こすことは数多く報告されています。実際、この作用を用いて早漏の治療薬になっています(ただし適応外使用のために保険診療ではありません)。しかし、精子力に対しての報告はほとんどありません。

調べてみると、イランのReza, Mらによる報告では、精子力に悪影響がありそうです。Reza M, et al. Sperm DNA damage and semen quality impairment after treatment with selective serotonin reuptake inhibitors detected using semen analysis and sperm chromatin structure assay. J Urol. 180: 2124-2128, 2008.

対象:50歳以下でSSRIを6ヶ月以上服用しているうつ病患者さん74人。同年代で、精液検査で異常の無い44人を対照。

精液検査の結果(精子濃度・精子運動率・正常形態精子率・DNA断片化率)を患者さんと正常対照ボランティアで比較。さらに、SSRIでの治療期間と上記の精液検査の結果の関係を検討した。

SSRIを使用している患者さんは、正常の人よりも精子濃度・精子運動率・正常形態精子率ともに低いことが判りました。さらに精子力に重要なDNA断片化率はSSRIを使用している患者さんでは、正常の人よりも高い事が判りました。つまり、SSRIを使用している患者さんでは、精子力が低下しているのです。さらに、SSRIの使用期間が長くなる程、精子濃度・精子運動率・正常形態精子率は低くなることが判りました。さらに、DNA断片化率は、SSRIを使用している期間が長いほど、高くなり精子力が低下する事が判りました。(画像をクリックして拡大・Table 1)
Table-1-2013.8
Table 1 2013.8.11

この原因は詳しくはわかっていませんが、以下のようなメカニズムが想定されています。

①セロトニンが銅イオンの存在下では活性酸素(hydroxyl radical)を産生することで、精子DNAに損傷を与える。

②SSRIによる射精障害のため、精子輸送が傷害され精路通過時間の増加で精子DNAの損傷を与える(脊髄損傷患者と同じ)。

うつ病は、不妊治療よりもその治療が優先されますが、うつ病の治療薬が精子力を低下させている可能性もあるのです。

本日発売のAERAに取材記事が掲載されました

2013.08.05 | マスコミ紹介

■AERA「’13.8.12-19 No.34 合併特大号」

本日発売のAERAに「精子力アップでがん予防」として、精子機能検査による精子力測定や精子力を高める食事と習慣についての取材記事が掲載されました。

AERA表紙「クリックして拡大」
AERA_20130805

AERA_130805_01 AERA_130805_02 AERA_130805_03

第31回日本受精着床学会総会・市民講座で講演します

■第31回日本受精着床学会総会・学術講演会「市民講座・がん患者と生殖医療」

第31回日本受精着床学会総会・学術講演会(大会長:セント・ルカ産婦人科院長宇都宮隆史先生)の市民公開講座でパネリストとして参加、妊孕性温存に関して泌尿器科医の立場から講演します。

・日 程:8月9日(金)14:30〜16:30
・場 所:別府国際コンベンションセンター「フィルハーモニーセンター」
・テーマ:がん患者と生殖医療

座長は石塚文平先生(聖マリアンナ医科大学高度生殖医療技術開発講座)と石原 理先生(埼玉医科大学産婦人科学教室)、パネリストとその講演テーマは以下の通りです(敬称略)。

私たちのパパやママは元白血病患者でした!
~自分が果たせなかった夢を次世代の患者さんへ託した私~
元白血病患者
大谷 貴子

抗がん剤投与によるマウス生殖機能への影響
セント・ルカ産婦人科
小池 恵

未婚女性造血器疾患患者の卵子凍結保存、
A-PART 日本支部の活動経験から
加藤レディスクリニック
青野 文仁

がん患者と生殖医療-泌尿器科医の立場から-
獨協医科大学越谷病院 泌尿器科
岡田 弘

がん患者と生殖医療-乳腺科医の立場から-
国立病院機構 九州がんセンター 臨床研究センター
大野 真司

がんと生殖における妊孕性温存の診療 up to date
聖マリアンナ医科大学 産婦人科学
鈴木 直

受精着床 市民公開講座2013

痛風治療薬と「精子力」

尿酸は、遺伝情報の根源物質である核酸を構成する主成分であるプリン体の最終代謝産物です。あらゆる食べ物に含まれているもので、毎日一定量が作られ、主に腎臓から排泄されます。この生産と排泄のバランスが崩れて、血中の尿酸量が増加して正常範囲を超えた状態を、高尿酸血症と呼んでいます。

尿酸は濃度が高くなると、腎臓や関節に析出して、腎障害・尿路結石・関節炎を引き起こします。

特に、足の親指の付け根の関節炎は、突然の激痛を伴うために、痛風(gout)と呼ばれています。現在、痛風と高尿酸血症はほぼ同義語として、用いられていることが多いようです。

 

痛風は、中年以降の病気と思っていませんか?

高尿酸血症の男性の割合は、20歳以上では25%以上であり年齢によりあまり変化していないのです(画像をクリックして拡大・Table 1)。
Table-2013.8.4
しかし、通院している人の割合(治療している人)は40歳以上で急増するために「中高年の病気」といった印象をもたれるのでしょう(画像をクリックして拡大・Table 2)。
Table 2013.8.4

しかし、よく見ると30-39歳でも5万人の通院患者がいることが判ります。これらの患者さんには、何らかの治療薬が処方されていることになります。

どのような薬が用いられるのでしょうか?

痛風発作時と痛みはないが、血中の尿酸値は高い高尿酸血症の治療に分けて考えましょう。

痛風発作の前兆期には、コルヒチン1錠(0.5mg)を用い、発作を抑え、痛風発作が頻発するときは、コルヒチン1日1錠を連日服用する「コルヒチンカバー」が有効であるとされています。発作の極期には非ステロイド抗炎症薬(NSAID)が有効です。

高尿酸血症の治療には、尿酸排泄促進薬のプロベネシド(ベネシッドR)・プコローム(パラミジンR)・ベンズプロマロン(ユリノームR等)と尿酸生成抑制薬のアロプリノール(ザイロリックR等)とフェブキソスタット(フェブリックR)があります。

さて、この痛風(高尿酸血症)の治療薬は、精子に悪影響を及ぼすのでしょうか?

尿酸排泄促進薬や尿酸生成抑制薬には、その作用機序から精子への影響はないものと考えられています。

コルヒチンに関しては、高濃度のコルヒチンは微小管の抑制作用により細胞分裂を阻害し,また胎盤通過性を有するため,精子に対する影響,不妊や妊娠中の胎児奇形の問題も懸念されると、添付文書上は警告されています。

さて、この根拠の文献を見てみますと、1972年にMerlinがコルヒチン0.6mg/日を3年間継続した無精子症患者で、コルヒチンを中止すると3ヶ月で精液所見が正常になり、再度コルヒチンを投与すると無精子になったという1例報告が端緒になっています。(Merlin, HE. Azoospermia caused by colchicine. A case report. Fertil. Steril. 23: 180-181, 1972)。これは、4年後にBremmerらの、健常ボランティア7人に対して、コルヒチンを4-6ヶ月投与したが、精液所見には変化が無かったとする論文で、否定されています。(Bremmer, WJ, et al. Colchicine and testicular function in men. N Engl. J.Med. 294: 1384-1385, 1976)

さらに、540人のコルヒチンを使用している若年者の精液検査で、精液所見の悪化はなかった事が報告されています。(Ye, TF. The efficacy of colchicine prophylaxis in articular gout. A reappraisal after 20 years. Arthritis Rheum. 12: 256-264, 1982)

これ以前に物議をかもした、コルヒチン治療を受けていた男性に生まれた2例の染色体異常児(trisomy)のLancetへの報告がありますが、これも因果関係は否定的です。(Ferreria, NR, et al. Trisomy after colchicine therapy. Lancet ii, 1304-1305, 1968)

もう少し最近の論文では、やはりコルヒチン治療を受けている2例の患者さんの精子の染色体構成を調べています(3 color FISH法で、精子のX染色体・Y染色体・18番染色体を染め分ける)。結果は、染色体数の異常の割合(aneuploidy)が一人の長期コルヒチン治療患者(後述するFMF患者)で妊孕性の確かめられた男性の精子(1.9%)よりも、高い(9.1%)ことが示されています。しかしながら、同じ施設でおこなった、精子濃度が低く運動率も低く正常形態精子の割合が低い患者さん(oligoasthenoteratozoospermia:OAT)の精子の染色体数の異常の頻度(7.4%)と比べれば、同程度であったと報告しています。つまり、これらの患者さんの精子に見られた染色体数の異常は、コルヒチンが作用したわけでは無く、精子形成の悪い患者さんに共通な現象であるということです。 (Kastrop P, et al. The effect of colchicine treatment on spermatozoa: a cytogenetic approach. J Assist Reprod. Genet. 16: 504-507, 1999)

それでは、このほかにコルヒチンが使われる病気があるのでしょうか?

家族性地中海熱とベーチェット病があります。

家族性地中海熱は、周期的に繰り返される発熱と、胸部、腹部の痛み、関節の疼痛と腫脹を特徴とする病気です。この病気は、地中海沿岸地域の中近東のユダヤ人、アラブ人、アルメニア人に多い病気ですが、日本人でも発症することが分かっています。

家族性地中海熱(Familial Mediterranean Fever: FMF)は周期性発熱、漿膜炎を主徴とする遺伝性自己炎症疾患です。日本では、2009年度の全国調査で、約300名の患者さんがいると推定されています。治療には、コルヒチンが有効で1錠(0.5mg)/dayを分2-1で開始して、無効な場合は、1日1.5mg/dayまで増量します。( 家族性地中海熱診療ガイドライン2011 暫定版)

この病気の場合は、発症年齢が生殖年齢と重なるために、コルヒチンの精子形成に対する作用が懸念されました。しかし、精巣の血管へのアミロイド沈着が精子形成障害の原因とされています。(Haimov-Kockam R, et al. The effect of colchicine treatment on sperm production and function: a review. Human Reprod. 13: 360-362, 1998)

ベーチェット病

ベーチェット病(Behcet’s disease)とは、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状の4つの症状を主症状とする慢性再発性の全身性炎症性疾患です。日本をはじめ、韓国、中国、中近東、地中海沿岸諸国によくみられ、シルクロード病ともいわれます。日本では北海道、東北に多く、北高南低の分布を示します。日本で治療中の患者さんは17000人以上です。男女とも20~40歳に多く、30歳前半にピークを示します。発作予防には、コルヒチン0.5-1.5mgが用いられますが、不十分な場合にはシクロスポリンを使用します。(画像をクリックして拡大・Table 3)
table-3-2013.8.4
table 3 2013.8.4

この病気の場合も、発症年齢が生殖年齢と重なるために、コルヒチンの精子形成に対する作用が懸念されました。しかし、ベーチェット病そのものによる血管炎や精巣上体炎が、精液所見の悪化に繋がっていると考えられています。(同上論文)

◎難病情報センターのホームページ「ベーチェット病」
◎厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患克服研究事業「ベーチェット病に関する調査研究」

結局は、高尿酸血症・痛風の治療薬は、「精子力」に影響しない。

しかし、その原因疾患によっては、「精子力」を低下させてしまう、と言う結論です。

35歳が精子力の曲がり角

やっぱり、精子力は35歳以上で低下するのだ。

最新の、米国生殖医学会雑誌(Fertility and Sterility)に掲載された記事を解説しよう。Age thresholds for changes in semen parameters in men. Stone BA, et al. 2013 Jun 27. [Epub ahead of print]

5081人の精液所見と、259人の精子の染色体構成をFISH法で検討しています。精液検査を受けた人の半数は、代理母や卵子提供者などに用いる予定で、精子凍結を行なった人たちで、残りの半数は不妊外来通院患者でした。これまでの、精液所見と加齢の関係の研究には、非配偶者間人工授精(AID)の精子提供者の精液を用いたり、避妊目的のパイプカットを受けに来た患者の精液を用いたりしてきました。しかしながら、これらの対象では測定に用いる事が出来るサンプル数が少ないという欠点がありました。

この論文では、不妊外来患者に関しては、初回の精液検査であるものを採用しています。つまり、明らかに精液検査の結果が悪いために、不妊外来に紹介された患者は除外されているという事です。

精液検査は、精子濃度の高い場合は自動精液検査機で行ない、精子濃度が低い(700万/ml以下)は血球計算盤で測定しています。精子運動率は、自動精液検査機で行い、直線運動で運動速度の速いもののみを運動精子として採用しています。

また、精子の制止判定をeosin B染色で、精子形態判定をパパニコロー染色した標本で行なっています(strict criteria)。さらに、精子の染色体構成を13番・18番・21番染色体・X染色体・Y染色体を分別出来るFISH法で解析しています。これにより、精子が、半数体になっているのか、X染色体精子か、Y染色体精子かを区別して、その比率を出しています。

さて、結果です。禁欲日数は、3-5日するように指導されていたため、どの年齢でも差がありませんでした。

①総精子数は34歳、②総運動精子数は34歳、③総前進運動精子数は34歳、④精子濃度は40歳、⑤正常形態精子率は40歳、⑥精子運動率は43歳、⑦精液量は45歳、⑧生存精子率は45歳、⑨X精子に対してのY精子の割合は55歳、を境にしていずれも減少する事が判りました。

この中で、①~⑧はこれまでにも少数例を対象にして、データがありました。すなわち、精子力は35歳から衰えてきます。生殖に関わる力は男女ともに、35歳がターニングポイントになるのです。(画像をクリックして拡大)(Table 1)

Table-1-2013.7.30
Table 1 2013.7.30

この論文の、最も注目すべき点は、⑨の衝撃的なデータです。

なぜならば、46歳未満ではY染色体精子とX染色体精子の割合は、年齢を問わずに1.06であり、このために産児は男児:女児が1.05-1.06:1になっているからです。この論文の結果からは、56歳以上の父親の精子により出来た子どもは女児の方が多くなると言うことになります。

そういえば、中村富十郎(歌舞伎役者) 69歳 男子 74歳女子, 上原謙 (俳優) 71歳 女子 後年もう一人女子, 三船敏郎 (俳優) 62歳 女子(三船三佳), 岡田真澄 (俳優) 63歳 女子, ピカソ (画家) 68歳 女子(パロマ・ピカソ), チャップリン(俳優) 60歳女子 62歳女子 64歳男子 68歳女子 70歳女子 73歳男子、でしたね。

僕は、近著 –『男を維持する「精子力」』-の中でも述べているように、精子力は加齢とともに低下するのです。僕たちのデータを後押しする論文が、ついに出てきたことは大変励みになることです。

では、どのくらいのスピードで低下するのでしょうか?

①総精子数は35歳から毎年1.71%、②総運動精子数は35歳毎年2.30%、③総前進運動精子数は35歳から毎年2.61%、④精子濃度は41歳から毎年0.78%、⑤正常形態精子率は41歳から毎年0.84%、⑥精子運動率は44歳から毎年1.74%、⑦精液量は46歳から毎年1.48%、⑧生存精子率は46歳から毎年1.45%、⑨X精子に対してのY精子の割合は56歳から毎年5.05 %ずつ減少すると報告しています。(Table 1)

35歳を過ぎると、困ったことに毎年精子力が減少し続けるのです。

ここで、穿った考えですが、最近の姉さん女房率の上昇は、精子力の衰えていない男性を求めた、種の保存に対する自然の適応力が働いた結果かもしれませんね。

本日の朝日新聞に取材記事が掲載されました

2013.07.30 | マスコミ紹介

■朝日新聞(7月30日朝刊)

本日の朝日新聞の朝刊に取材記事「男性不妊症、手術で治療」として、精索静脈瘤の手術後4か月で精子数、運動率ともに正常なレベルまで回復し、自然妊娠に至った症例が紹介されています。

掲載記事(画像をクリックして拡大)

20130730_Asahi

朝日新聞のサイト

前のページ | 次のページ

カレンダー

< 前月2025年4月                

 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

最新のコメント

PAGETOP