精液検査でOKが出ましたが、子宝に恵まれません

精液検査の結果についてよく尋ねられる事です。
精液検査だけでは、判ることに限界があります。このことを気付かしてくれる新しい論文が出ましたので紹介しましょう。

「精子力」が加齢変化を受けることを、昨年から度々様々な学会やメディアを通じて発表して来ましたが、最新の論文でも更なるデータが積み上がってきました。
精子の大きな役割は、受精卵ができて胚になってお母さんの子宮でヒトに成長するのに必要な、遺伝情報の約半分を卵に運び込むことにあります。この、DNAが傷ついていたのでは、妊娠・出産に結びつかないことは想像に難くありません。
最新の「男性の年齢と精子DNA断片化率について」の論文をご紹介いたします。Fertil Steril. 2014 Mar 29. pii: S0015-0282(14)00144-7. doi: 10.1016/j.fertnstert.2014.02.006. [Epub ahead of print]

パリのBellocらは、無精子症を除いた4345人の不妊外来患者と、その内で2010年版のWHOの基準値で、正常精液検査結果の1974人を対象にして、精子DNA断片化率を検討しました。

無精子症を除いた全ての不妊患者さんと比較して、精液検査で異常の無い患者さんたちは、勿論精液量・精子濃度・運動率・正常形態精子率のいずれも良好でした。また、精子DNA断片化率は低いことが判りました。
(画像をクリックして拡大・Table 1)
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Table 12014.6.1

これまでの多くの報告では、今述べましたように、不妊外来を受診した男性患者さん全てを対象にしたり、精液検査で精子濃度が低かったり・運動性が悪かったりするいわゆる男性因子の患者さんを対象にしたものばかりでした。
この研究の面白いのは、さらに解析を続けています。
現在の精液検査の基準(2010 WHO)では異常なし(正常精液所見と判定)の不妊患者さん:原因不明不妊とか特発性不妊とか呼ばれています:を研究の対象とした事です。
彼らの研究によれば、たとえ精液検査で異常が無くても年齢が上がるほど、精子DNA断片化率は高くなるのです。
(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
fig-201406
Fig. 1 2014.6.1
やはり、「精子力」は加齢とともに低下するのです。
さらに、精子機能(「精子力」)は、一般の精液検査だけでは判定できない事に注意が必要です。
さらなる検査法の開発・普及に努力いたします。

男性不妊に対する助成制度について

不妊治療には健康保険が適応されていないものが多数あるために、若い患者カップルの経済的負担が増加しています。そこで、少子化対策の一環として、各地方自治体単位で助成金を支給する制度があります。その制度を少し見直してみましょう。
対象は
「治療開始時に法律上の婚姻関係にある夫婦で、特定不妊治療以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか、又は極めて少ないと医師に診断された方で、次のいずれにも該当する方」
となっています。

さらに、以下のような条件が付帯しています。
• 夫婦ともに、または夫婦のいずれか一方が○○都道府県に住所がある方
• ○○都道府県が指定した医療機関において特定不妊治療を受けた方
(指定医療機関は、都道府県知事、政令指定都市及び中核市の市長が指定した医療機関で、県外の医療機関でも、その都道府県知事等が指定していれば助成の対象となります。)
• 夫及び妻の前年(1月から5月までの申請にあっては前々年)の所得の合計額が730万円未満であること。(所得の合計及び計算方法は児童手当法施行令を準用します。)

助成額は東京都を例に取れば、(画像をクリックして拡大・Table 1)の通りです。(都道府県や市単位で少し額が違う場合もあります)
table1_201405
2014.5.25 Table 1

さらに、この制度は平成28年から変更が決まっています。(画像をクリックして拡大・Table 2)
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2014.5.25 Table 2

これに対して、現在男性不妊の治療に対して助成を行っているないしは行なう事を決定しているのは、三重県と福井県と浦安市と大分市しかありません。
最初に行動を起こした三重県は、大阪でリプロダクションクリニック大阪を運営している、私の後輩の石川智基医師の熱意が知事を動かしたと聞いています。
人口の集中している、関東圏・関西圏で同じように、男性不妊に対する助成制度が広がっていくことを切に望んでいますし、現在自治体に協力の要請をしています。
助成額の多寡ではなく、男性不妊そのものに目を向けてもらうための、最も効果的な手段であると考えます。
皆様は、いかがお考えでしょうか?






どんな食べ物が精子に良いですか?

「どんな食べ物が精子に良いですか?」
これも、患者さんから尋ねられる事です。
これまでに、環境から入ってくるエストロゲンが精子に悪い影響を与えていることは明らかになっていますが、欧米では特に、食べ物として入ってくるエストロゲンの60-80%がミルクによるものであると言われています。

高脂肪食の人は、形態異常精子率が高かったり、直進運動精子率が低かったとの報告があるため、Chavarro博士たちは、高脂肪食と精液所見の因果関係を調べました。(Fertil Steril 101: 1280-1287, 2014)

まず、マサチューセッツ総合病院の不妊センターに人工授精または体外受精を受けに来た患者(女性)のご主人に、食物摂取頻度調査票(FFQ)を渡して、思い出しての記録ではなく前向きに食事内容を記録してもらいます。その内容から、高脂肪食はどうか・ミルクは何を飲んだか・チーズの種類は・ピザは食べたか・・・・とこと細かに記録してもらいます。それから精液検査をして、摂取食物との関連を調べたのです。

摂取カロリー別に、4群に分けて比較してみると、最も高カロリー食であったのは、白人で喫煙歴がない人たちでした。そして、この人たちは、朝食は冷たいシリアルが多く、タンパク質と飽和脂肪酸に富んだ食事内容でした。

精液検査との関係では、
① チーズの摂取量が多いほど有意に精子濃度が低く、総精子数と前進運動率も低い傾向がある.
② チーズ摂取の多い群は、低い群に比較して総精子数が31.9%、精子濃度が38.5%、前進運動精子率が5.4%低い.
③ 低脂肪食の群は、高脂肪食の群に比較して、33.3%精子濃度が高く、9.3%前進運動精子率が高い.
④ 低脂肪ミルクをよく飲む人は余り飲まない人に比較して精子濃度が29.9%、前進運動精子率が8.7%高い.
と言う調査結果でした.

また、背景因子を揃えてみると、低脂肪食の頻度が高いほど・低脂肪ミルクを飲む回数が多いほど、精子濃度が高いと言う結果も出てきました。
(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
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Fig.1 2014.5.24

この理由は、内分泌の面から・インスリン様成長因子IGF-1の面から推察していますが、十分な説明には至っていません。
単純に、この結果を日本人に当てはめるわけには行きません。世界に冠たる雑食の日本人で調査すれば、きっと違ったデータになると思います。今後の、我々の研究に期待して下さい。

出生率と経済

21014年5月20日の日本経済新聞にとても興味深い記事(「財政再建、出生率の視線を」)が載っていました。
(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
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Fig. 1 2014.5.21

現在の日本の合計特殊出生率は1.41(本年度発表)ですが、今後に関して国立社会保障・人口問題研究所の人口推計ではもう少し低下すると予測されています。この中で、中間的な推計値である中位推計では出生率は1.35と予測されており、これを元に議論が展開されています。
記事を書いた、世界平和研究所主任研究員の北浦修敏氏によれば、出生率が1,35の中位推計の値で今後22世紀まで続くとすると。生産年齢人口は、2040年以降毎年1.5%ずつ減り続け、これに伴って、政府の支出は増加し、2070年頃に現在よりも7%増して、プラトーに達すると計算されています。この支出をまかなうために、消費税率を現在よりも14%程積み増さないといけなくなるというのです。
これに対して、出生率が2.07に増加した場合は逆に2040年頃から、新たに生まれた世代が生産年齢人口に加わるため、2090年までに現在の水準の政府支出に戻すことが、可能になるというのです。消費税率も、一時的には上昇しますが、現在と同じ水準に戻すことが可能になるというものです。

国が豊でなければ、子どもを産み育てることは出来ません。
不妊治療だけで解決するわけではありませんが、少子化対策は正に待ったなしの崖っぷちになっている事がお分りになるでしょう。
今、手を打ってもその効果が出始めるのは2040年頃です。
つまり、4半世紀のギャップがあるのです。

たばこと男性不妊 第1話

よく尋ねられる事ですが、『タバコは不妊に影響しますか?』
医者の立場としては、第一に身体に悪いから禁煙を勧めます。
今日は、タバコと男性不妊についてのお話しのその1です。

タバコは細胞の活性酸素産生を誘導して精子の不飽和脂肪酸を多く持った細胞質膜にダメージを与える事が判っています。そのほかの,メカニズムはどうでしょうか?

精子形成過程で、精子のDNAをパックしているヒストンというタンパク質がtransition proteinになりクロマチンの濃縮が起る過程でプロタミンというタンパク質に置き換わります。この間に精子は大きく形を変え伸張精子細胞(elongated spermatid)に変わります。
小さな精子頭部に、遺伝情報がぎゅうぎゅう詰めにパックされるためには、このヒストン⇒プロタミンの置換が必要になります。この置換が正常に起っていない精子は受精に寄与しないと考えられています。

中国からこれに関して、タバコとの関連を研究した興味深い論文が発表されました。(Yu B, et al. Fertil. Steril. 101: 51- 57, 2014)
Yu先生(Guangzhou医科大学:広州医科大学)らのグループは、147人のヘビースモーカー(1日2パック以上 5年以上)と175人のノンスモーカーの不妊外来患者で以下の検討を行いました。
(画像をクリックして拡大・Table.1)
Table-1.-2014.5.20
(Table 1)Table 1. 2014.5.20

① 喫煙と精液中のニコチン代謝産物のコチニン(cotinine)の関係
② 喫煙と精液検査所見の関係
③ 喫煙とヒストン⇒プロタミンの置換の関係(ヒストン置換異常率)

コチニンの濃度は勿論ヘビースモーカーが高いことが判りました。
さらに、コチニン濃度が高いほど、精子運動率が低く・生存精子率が低く・精子濃度や総精子数も低いことが判りました。
喫煙との関係では、総精子数はヘビースモーカーが有意に少なく、ヒストン置換異常率は有意に高いことが判りました。
次に、このヒストン置換異常率をヘビースモーカーとノンスモーカーの中で精子濃度と精子運動率で層別に検討しました。
精液検査で正常の場合でも、ヒストン置換異常率はヘビースモーカーでは19.6±9.1%とノンスモーカーでの16.8±7.8%より有意に高いことが判りました。
同じヘビースモーカーでも、精子濃度が低い人や精子運動率が低い人はヒストン置換率異常が有意に高いことが分かりました。
この研究からも、喫煙は、百害あって一利なしです。

最近は、スモーカーが少しずつ減少していますが、未だにゼロにはなりません。
(大都市圏では減っていますが、地方都市ではまだまだです)
少なくとも、不妊に悩む男性にとって、禁煙は当然の取るべき行動であると思います。
常々思っていることですが、こんな事を書くぐらいなら(身体に毒であると認識しているならば)販売を中止すべきでしょう。
(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
Fig.-1-2014.5.20
(Fig. 1)Fig. 1 2014.5.20

せめて、精子に関しても、これぐらい直接的に悪影響がある事を示すべきでしょう。
(画像をクリックして拡大・Fig. 2)
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(Fig. 2)FIg. 2. 2014.5. 20

「どの日にタイミングを取れば妊娠しやすいのですか?」「夫の年齢は妊娠しやすさに関係ありますか?」

この2つの質問は繰り返し尋ねられる質問です。

日本の中にはこれに答える大規模調査はありません。しかし、少し古いですが2つの質問に見事に応えた最も有名な論文を紹介しましょう。これまでに、多くの論分や著書で引用されています。Dunson DB, Colombo B, Baird D. Changes with age in the level and duration of fertility in the menstrual cycle. Hum Reprod. 27: 1399-1403, 2002

このイタリア人のグループは、782の自然妊娠を目指しているカップルの、月経周期とsexを行なった日(月経周期の何日目にsexしたか)それと妊娠の有無を合計5860周期にわたって調査しています。排卵日は基礎体温から推測しています。排卵日を0日として、その前4日にsexすれば-4日という事になります。
この結果、月経周期からみたsexの日と妊娠成立には、大変興味深い3つの結果が判りました。
20140216_1図1)図12014.2.16

①排卵日から6日前から排卵後2日までの9日間にしか妊娠のチャンスは無いこと(妊娠率5%以上を妊娠のチャンスとした場合)。
②排卵日よりも2日前(-2日)が最も妊娠率が高かったこと。つまり、基礎体温から見た場合は、排卵日の2日前のsexはお薦めです。
③妻の年齢が上がるほど、月経周期のそれぞれの日における妊娠率は階段状に下がること。

ここで、考えなければならないのは、夫の年齢です。

夫の年齢によって、月経周期での妊娠可能な期間は影響を受けるのかと言う疑問があります。これを解析した結果は妻の年齢が19-26歳、27-29歳,30-34歳では夫の年齢に関係なく-6日から±2日までが妊娠のチャンスがあるのですが、35-39歳の場合は夫の年齢は妻の年齢よりも5歳高くなると、妊娠のチャンスは-5日から+2日までの8日間と1日短くなる事が判りました。女性生殖器内での精子の寿命が短くなることが原因と推測しています。

さて、さらに解析を進めていきます。

妻の年齢と夫の年齢と月経周期での妊娠の確率を検討しました。妻の年齢別に、夫が同い年の場合と5歳年上の場合に分けて、どの日にsexしたら妊娠の確率がどのくらいあるかを調べました。

>20140216_2(図2a, b, c)図2 2014.2.16

これを見ると、妻の年齢が19歳から34歳までは夫の年齢が同い年でも5歳年上でも妊娠率に差がありませんが、妻の年齢が35-39歳の場合は夫が同い年の場合と比較して5歳年上の場合は妊娠率がグンと低くなるのです。

ここでも、精子力の35歳問題がすでに明らかになっていたのです。

この論文では残念なことに、年下の夫(姉さん女房)の場合は妊娠率がどう変化するかについては報告されていません。今後、さらに研究が進む分野だと思います。

マラチオンと精子力

マルハニチロホールディングス子会社のアクリフーズ群馬工場で生産された複数の商品を食べた人が、吐き気や発熱などの異常を訴え、これらの商品から殺虫剤のマラチオンが検出されたことが報道されてから、「マラチオンなどの残留農薬の精子力に対する影響はどうですか?」という、ご質問を多く頂きます。

そこで、これまでの論文を調べてみました。
まず、マラチオンですが、有機リン・有機硫黄系殺虫剤の一種であり、世界中でもっと多く使用されているものであり、国内でもホームセンター等で許可無く購入できるものです。
ヒトにマラチオンを飲んでもらうような実験は出来ませんので、まずは疫学調査の報告を見てみましょう。

Hossain F, et al Effects of pesticide use on semen quality among farmers in rural areas of Sabah, Malaysia. J Occup health 2010; 52: 353-360.
Hossainらは、マレーシアのサバ州の3つの地域での農家の男性156人を対象にして、使用している殺虫剤の種類と精液所見を比較しました。日本では禁止されている、パラコート(マレーシアでも違法使用)と今回問題になっているマラチオンを用いていることが判りました。そこで、精液検査の結果ですが(方法は男性不妊百科「精液検査を受ける」を参考にしてください)、農薬使用のある農夫の精液量・精子濃度・精子運動率・正常形態精子率は、いずれも使用していない農夫に比較して有意に悪いことが判りました(画像をクリックして拡大・Table 1)。

Table-1-2014.1
Table 1 2014.1.12

しかも、農薬を使用している農夫は、精液量が異常になる危険性は使用していない場合の6.5倍、精子濃度は8.77倍、精子運動率は5.18倍、正常形態精子率は4.56倍になると報告されています。
ここで興味深いのは、この精液検査異常は、劇薬のパラコート使用の場合と今回のマラチオンで差が無いことです。
どうやら、マラチオンは精子力を下げるようです。

さて、動物実験ではどうでしょうか?
ラットをモデルにした、実験が報告されています。
Uzun FG, et al. Malathion-induced testicular toxicity in male rats and protective effect of vitamins C and E. Food and Chemical Toxicology. 2009; 47: 1903-1908.
ラットに致死量の1/50のマラチオンを連日28日間与えた結果、精子濃度・精子運動率は減少し・精子奇形率は増加したと報告しています(画像をクリックして拡大・Table 2)。さらに、この作用はビタミンCとEの摂取により軽減されたと述べています。

Table-2-2014.1
Table 2 2014.1.12


マラチオンの精子形成障害のメカニズムは、活性酸素とくに・OH(ハイドロキシラジカル)によることが大きいので、これを打ち消す抗酸化剤が有効であると言う事ですね。

しかし、これは長期にマラチオンを与えた場合のデータです。
今回の事件のように短期間(1回だけ)マラチオンを与えたらどうなるのでしょうか。
マウスでの実験がありました。
Bustos-Obregn E, et al. Effect of a single dose of malathion on spermatogenesis in mice. Asian J Androl. 2003; 5: 105-107.
マウスに致死量の1/12のマラチオンを、1回だけ与えたときの精子形成を時間経過とともに調べています。
すると、はじめは変化がないのですが、40日後には尾部の形の悪い精子が増えてくることが判りました(40.8%⇒58.5%)。しかし、精子濃度には影響がなかったと言う結果です。
動物実験の結果をすぐにヒトに当てはめることは出来ませんが、今回の結果からは、マラチオンを含んだものを食べてしまった場合は、長期間(ヒトの場合は少なくとも、70-80日間は精液検査で経過観察が必要でしょう。
お心当たりの方がおられましたら、早速精液検査をお薦めいたします。

人工授精を受けるときの禁欲期間はどのくらいがいいのですか?

これは、不妊治療中の患者さんからよく尋ねられる質問です。
精液検査の中で、禁欲期間と関係しているのは、精液量(出さなければ増えます)、精子濃度(出さなければたまります)、死んだ精子数(古くなれば死滅した精子の数が増えます)、総運動精子数(とりあえず動いている精子数は増えます)です。これに比較して精子運動率(いつまでも生きているわけではありません)は減少します。

これまで、射精液中の総運動精子数が最大になるのは禁欲3-4日なので、これが人工受精の患者さんにも当てはめられてきました。

しかし、精子の通り道(精路)に精子が留まる期間が長いほど、活性酸素の影響を受けて精子の質(精子力)が落ちることが判明してきました。そこで、どのくらいの禁欲期間(セックス以外にもマスターベーションで射精はしますので)と言うより無射精期間が人工授精による妊娠には最適なのかの検討が行なわれました。

Paul B Marshbumらの論文(Fertil Stertil 93: 286, 2010)によれば、かれらはCarolinas Medical Center Women’s Institute (Charlotte, NC, USA)の372カップルの866回の人工授精周期について解析を行ないました。
無射精期間を、2日以下・3-5日・6日以上の3つの群に分けて比較すると、大変興味深い事が判ったのです。
なんと、人工授精による妊娠率は2日以下の無射精期間が、それ以上よりもずっと良好だったのです。(画像をクリックして拡大・Table.1)

table1_20131130
Table 1. IUIと禁欲期間

さらに、無射精期間と人工授精用に調整前のサンプルの総運動精子数と人工授精用に調整済みのサンプルの総運動精子数と妊娠率に関して検討しました(画像をクリックして拡大・Fig. 1)。

fig1_20131130
Fig. 1 総運動精子数と禁欲期間

すると、無射精期間が長くなると少しずつ人工授精用に調整済みのサンプルの総運動精子数は増えましたが、人工授精による妊娠率は低くなったのです。

これは、2つのメッセージがあります。

人工授精の時には禁欲は2日以下で良い。
つまり排卵誘発するために人工授精の30-36時間前にhCGを打つのですが、その後に射精(セックス)しても良いと言うことです。

精子力は数だけでは評価できない。見かけの数は増えても、妊娠にはつながりません。

これからは、溜めないで精子力増強です!

第58回日本生殖医学会学術集会での講演が朝日新聞で紹介されました

■第58回日本生殖医学会学術集会での講演が朝日新聞で紹介されました。

第58回日本生殖医学会学術集会にて、獨協医科大学越谷病院泌尿器科の男性不妊チームの慎武先生による「精子力は35〜40歳を境に低下する-mouse oocyte activation testを用いた検討」と題した発表が、本日の朝日新聞夕刊に紹介されました。

2013年11月15日(金)朝日新聞 夕刊

精子の力「35〜40歳から衰え」
不妊の一因か、獨協医大が発表

asahishinbun

(事務局より)

女性の涙と男心

ブログの読者の方から、こんな質問がありました。
『testosterone(男性ホルモン)とフェロモン(pheromone)の関係について教えてください- 男性ホルモンが上がると女性にもてるフェロモンが増えてモテモテになるのでしょうか?』

これは、困った質問です。というのはフェロモンの研究は主に昆虫や実験室の小動物を中心に行なわれています。ヒトにモテホルモンと巷で噂になっているフェロモンが存在するのかは、現在少しずつ研究が進んでいる段階ではっきりしたことは、解明されていないのが現状だからです。

そこで、PubMedという医学系のデーターベースにアクセスしてみました。キーワードはtestosteroneとpheromoneです。するとヒトの涙には化学シグナル物質があると言う論文が1番にヒットしてきました。
雑誌は、かの有名なサイエンスです。

Gelstein S, Yeshurum Y, Rozenkrantz L, Frumin I, Roth Y, Sobel N. Human tears contains a chemosignal. Science 331, 226-230, 2011

この論文について解説しましょう。

涙には2種類があります。眼の表面の乾燥を防ぐ目的で分泌されている液体と悲しいときに出てくる液体です。後者の液体が出てくるのは、ほ乳類ではヒトのみに知られています。

Gelsteinらは、悲しい映画を見て女性が流した涙を集めてきて、これが男性の情動に与える作用を研究しました。涙を流している女性を見ることからうける視覚(目からの)による影響ではなく、涙を嗅ぐことによる影響を検討したのです。

どうして、こんな研究をしたのでしょうか?

日本人とは違って(と言っても最近はこういった習慣を持った若者も増えていますが)西洋人は涙を流している女性を抱き寄せて、鼻と鼻がくっつくような距離で話しかけたりしますね。すると、鼻の近くに涙があるので、涙を嗅ぐことによる影響があるのではないかと考えたのです。(日本人にはない発想ですね)

まず、集めた悲しみの涙に独特のにおいがないか調べました。これには、鼻の下に、涙をしませた紙を貼った場合と生理食塩水をしませた紙を貼った場合で、においの違いを区別が出来るかを調べたのです。研究に協力した24人の男性はこの2つをかぎ分けることが出来なかったのです。つまり、悲しみの涙には特別なにおいは無いという事です。(画像をクリックして拡大・Fig.1)
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FIg. 1 2013.10.29

次に、涙を嗅いだ後と生理食塩水を嗅いだ後で、同じ女性の顔(画像をクリックして拡大・Fig.2)を見て性的魅力をどの程度感じたかを調べました。
Fig.-2-2013.10.29
Fig.2 2013.10.29

すると、涙を嗅いだ場合は生理食塩水に比較して性的魅力を感じにくくなっていました。(画像をクリックして拡大・Fig.3)
Fig.3-2013.10.29
Fig.3 2013.10.29

この原因はどこにあるのでしょうか?

著者たちは、唾液中のテストステロン(生理活性を持ったテストステロン)濃度に対する涙の影響を調べました。すると、涙を嗅ぐとテストステロンが低下する事が判ったのです。(画像をクリックして拡大・Fig.4)
Fig.4-2013.10.29

Fig.4 2013.10.29

さらに、もっと研究は続きます。脳の機能を調べるfunctional MRIと言う特殊な検査で性的魅力を感じたときに活動性が高まる脳の部分を観察しました。すると、涙を嗅ぐと生理食塩水を嗅いだときに比べて活動性が低くなることが判りました。

女性の涙は、男性のテストステロンを低下させ・脳の性的な活動命令を出しにくくする作用があるのです。涙の成分のうちの何がこのような作用があるのかが判れば、反対に性的な魅力を相手に与える物質、すなわちフェロモンを突き止めることに繋がるかも知れません。

不妊に悩むカップルの場合は、ご主人はパートナーに悲しみの涙を流させるようではいけませんね。にこにこパートナーと子作りに励んでください。

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