これまでに、たびたび「不妊症はカップルの疾患で有り、女性パートナーだけでなく男性パートナーも、診察を受ける必要がある」と、強調してきました。
その中で、最も大事な理由に「不妊症の男性に精巣がんが多い」という事実があります。
最近は、男性不妊の診察で、精巣や精巣上体の触診に加えて、精巣の超音波検査は必須になっています。超音波診断装置の進歩により、2-3mmの病変でも明瞭に捉えることが出来るようになりました。
獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンターでの集計でも、1%以上の患者さんで精巣に超音波検査で腫瘤を認めます(図1)。
この精巣の小さな腫瘤病変に関する大規模な観察結果が報告されました(J Urol (2017), doi: 10.1016/j.juro.2017.08.004)。
不妊症の診察のため精巣超音波検査を受けた4088人の男性患者を調査したところ、触診では触れないのですが(本人も気づいていない)実に120人(2.9%)に1cm未満の腫瘤を認めました。18人は精巣の腫瘤を摘出するために精巣部分切除を受けました。この結果6人が精巣がん(すべてセミノーマ)と診断され、残りの12人はライディッヒ細胞腫瘍8人、セルトリ細胞腺腫1人、胚細胞無形成1人、硝子化結節1人、良性であるが詳細不明1人でした。精巣がんの6人は全員精巣摘除術を受け、stage 1の早期がんでした。この報告が出された時点では、再発や転移がなく経過していました(図2)。
この他の102人は、定期的な精巣超音波検査を受けています。そして、大きさが5mmを超えて、増大傾向にあれば手術療法が考慮されることになっています。
精巣がんは、極めて悪性度が高く、治療開始の時期によっては、抗がん剤治療を行っても救命できない場合があります。しかし、早期に発見できればほぼ100%救命できるがんです。
男性不妊外来では、常にこの精巣がんを念頭に超音波検査を行っています。
不妊症そのものは直接命に関わりません、しかし不妊症は精巣がんの存在する可能性を秘めている状態です。不妊症→精巣超音波検査を心にとめてください。2-3mmの小さな状態で発見可能です。