EHS(勃起の固さスケール:Erection Hardness Score)をご存じですか?
ED(Erectile Dysfunction:勃起障害)の診断に使うために、主にファイザー社が主体となって開発されました。
Grade 0: 陰茎は大きくならない
Grade 1: 陰茎は大きくなるが、堅くならない。
Grade 2: 陰茎は硬いが、挿入に十分なほどでない。
Grade 3: 陰茎は挿入には十分硬いが、完全に硬くはない。
Grade 4: 陰茎は完全に硬く、硬直している。
このように、陰茎の固さを性交可能かどうかと結びつけて評価しようとしたものです。これまでに用いられてきた、IIEFでは性交機会が無いと判断が出来なかったことを補う診断ツールになっています。また、とても簡単な質問ですので、スクリーニングには向いていると考えられています。
すなわち、大規模な調査をするには向いているということです。
このEHSを用いて、日本人に大規模なインターネット調査を行なった研究がSexual MedicineのOpen Access版に掲載されました。
この中には、多くの興味深い知見があります。
まず、年齢とEHSですが。これは容易に予測がつくように、加齢とともに固さが失われてゆきます。EHS2以下はセックスに障害がある程度のEDと考えられます。20代で8.7%、30代で12.3%、40代で18.2%、50代で35.1%、60代で54.9%、70歳以上で63%がEDであると推察できます。(画像をクリックして拡大・Fig. 1)
Fig. 1 2013.10.6
実際にセックス回数を尋ねてみると、もっと深刻なことが判ります。つまり、パートナーの存在がセックスには必要であるので(当然ですが)上記の回数よりも大幅にセックス回数は減少しています。そして驚くことに、年齢によってのセックス回数に差が無いのです。若者はどうしたのでしょう?(画像をクリックして拡大・Fig. 2)
Fig. 2 20123.10.6
生殖年齢の20歳代から40代でこの数字はかなりゆゆしき事態です。男性不妊外来にもたくさんの患者さんが埋もれている可能性があります。
さらに検討は続きます。マスターベーションの回数も年齢別に調査しています。マスターベーションの回数は、加齢とともに減少しています。しかし、70歳以上でも50%以上の男性は1回以上/月のマスターベーションをしている実態があります。(画像をクリックして拡大・Fig. 3)
Fig. 3 2013.10.6
セックスはしなくてもマスターベーションはしている日本の現状が浮き彫りになっています。さらに、年齢が進んで勃起はしなくても射精は出来るマスターベーションの実態を反映しているのでしょう。
この論文には、インターネット調査という顔の見えない手法の限界はあります。また、パートナーの有無、住環境、職業などの性交に影響を与える因子を考慮していないため踏み込んだ解析は出来ていませんが、現在の日本のセックス事情を切り取った重要な論文と言えます。