■「週刊朝日」2014年2月21日号(2月10日発売)
現在発売中の週間朝日の、「男の妊活」 最新事情 精子も35歳から衰える!?という記事で、「精子力」が取り上げられています。
精子力と35歳問題は、かなり浸透してきました。男性不妊外来の患者さんでは、35歳を境に精子力が極端に低下する人が多いことが判明してきました。これまで、agingの影響は女性の問題(卵子)のみが強調され問題視されてきましたが、男性側(精子)にも問題があるのです。
参考にしてください。
CareNet.comの運用する希少疾病ライブラリhttp://www.carenet.comに男子低ゴナドトロピン性精巣機能低下症(Male Hypogonadtropic Hypogonadism: MHH)が掲載されました。
医師向けに書いていますので少し難しい内容ですが、参考にしてください。
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マルハニチロホールディングス子会社のアクリフーズ群馬工場で生産された複数の商品を食べた人が、吐き気や発熱などの異常を訴え、これらの商品から殺虫剤のマラチオンが検出されたことが報道されてから、「マラチオンなどの残留農薬の精子力に対する影響はどうですか?」という、ご質問を多く頂きます。
そこで、これまでの論文を調べてみました。
まず、マラチオンですが、有機リン・有機硫黄系殺虫剤の一種であり、世界中でもっと多く使用されているものであり、国内でもホームセンター等で許可無く購入できるものです。
ヒトにマラチオンを飲んでもらうような実験は出来ませんので、まずは疫学調査の報告を見てみましょう。
Hossain F, et al Effects of pesticide use on semen quality among farmers in rural areas of Sabah, Malaysia. J Occup health 2010; 52: 353-360.
Hossainらは、マレーシアのサバ州の3つの地域での農家の男性156人を対象にして、使用している殺虫剤の種類と精液所見を比較しました。日本では禁止されている、パラコート(マレーシアでも違法使用)と今回問題になっているマラチオンを用いていることが判りました。そこで、精液検査の結果ですが(方法は男性不妊百科「精液検査を受ける」を参考にしてください)、農薬使用のある農夫の精液量・精子濃度・精子運動率・正常形態精子率は、いずれも使用していない農夫に比較して有意に悪いことが判りました(画像をクリックして拡大・Table 1)。
Table 1 2014.1.12
しかも、農薬を使用している農夫は、精液量が異常になる危険性は使用していない場合の6.5倍、精子濃度は8.77倍、精子運動率は5.18倍、正常形態精子率は4.56倍になると報告されています。
ここで興味深いのは、この精液検査異常は、劇薬のパラコート使用の場合と今回のマラチオンで差が無いことです。
どうやら、マラチオンは精子力を下げるようです。
さて、動物実験ではどうでしょうか?
ラットをモデルにした、実験が報告されています。
Uzun FG, et al. Malathion-induced testicular toxicity in male rats and protective effect of vitamins C and E. Food and Chemical Toxicology. 2009; 47: 1903-1908.
ラットに致死量の1/50のマラチオンを連日28日間与えた結果、精子濃度・精子運動率は減少し・精子奇形率は増加したと報告しています(画像をクリックして拡大・Table 2)。さらに、この作用はビタミンCとEの摂取により軽減されたと述べています。
Table 2 2014.1.12
マラチオンの精子形成障害のメカニズムは、活性酸素とくに・OH(ハイドロキシラジカル)によることが大きいので、これを打ち消す抗酸化剤が有効であると言う事ですね。
しかし、これは長期にマラチオンを与えた場合のデータです。
今回の事件のように短期間(1回だけ)マラチオンを与えたらどうなるのでしょうか。
マウスでの実験がありました。
Bustos-Obregn E, et al. Effect of a single dose of malathion on spermatogenesis in mice. Asian J Androl. 2003; 5: 105-107.
マウスに致死量の1/12のマラチオンを、1回だけ与えたときの精子形成を時間経過とともに調べています。
すると、はじめは変化がないのですが、40日後には尾部の形の悪い精子が増えてくることが判りました(40.8%⇒58.5%)。しかし、精子濃度には影響がなかったと言う結果です。
動物実験の結果をすぐにヒトに当てはめることは出来ませんが、今回の結果からは、マラチオンを含んだものを食べてしまった場合は、長期間(ヒトの場合は少なくとも、70-80日間は精液検査で経過観察が必要でしょう。
お心当たりの方がおられましたら、早速精液検査をお薦めいたします。
男性不妊や生殖に関する基礎&最新情報をまとめた「男性不妊百科」の全てのコンテンツを公開しました。
今回公開のページ
・Close Up(顕微授精)
・Close Up(Conventional TESE/MD-TESE)
・Close Up(MD-TESE手術の流れ)
・Close Up(WHOの精液検査について)
ご参考にしていただければ幸いです。
(事務局)
こんにちは。事務局です。
Dr.岡田、ただいま執筆中です。
行き詰まったのか、うなっています・・・・・・
次回のブログ更新をご期待ください。
男性不妊に関する情報はこちら↓
→「男性不妊百科」
→日本で男性不妊に悩む人は、どれくらいいるのか?
→正しい精液検査の方法とは?
事務局よりお知らせです。
北越谷にある「ほっと越谷」にて、
これは、不妊治療中の患者さんからよく尋ねられる質問です。
精液検査の中で、禁欲期間と関係しているのは、精液量(出さなければ増えます)、精子濃度(出さなければたまります)、死んだ精子数(古くなれば死滅した精子の数が増えます)、総運動精子数(とりあえず動いている精子数は増えます)です。これに比較して精子運動率(いつまでも生きているわけではありません)は減少します。
これまで、射精液中の総運動精子数が最大になるのは禁欲3-4日なので、これが人工受精の患者さんにも当てはめられてきました。
しかし、精子の通り道(精路)に精子が留まる期間が長いほど、活性酸素の影響を受けて精子の質(精子力)が落ちることが判明してきました。そこで、どのくらいの禁欲期間(セックス以外にもマスターベーションで射精はしますので)と言うより無射精期間が人工授精による妊娠には最適なのかの検討が行なわれました。
Paul B Marshbumらの論文(Fertil Stertil 93: 286, 2010)によれば、かれらはCarolinas Medical Center Women’s Institute (Charlotte, NC, USA)の372カップルの866回の人工授精周期について解析を行ないました。
無射精期間を、2日以下・3-5日・6日以上の3つの群に分けて比較すると、大変興味深い事が判ったのです。
なんと、人工授精による妊娠率は2日以下の無射精期間が、それ以上よりもずっと良好だったのです。(画像をクリックして拡大・Table.1)
Table 1. IUIと禁欲期間
さらに、無射精期間と人工授精用に調整前のサンプルの総運動精子数と人工授精用に調整済みのサンプルの総運動精子数と妊娠率に関して検討しました(画像をクリックして拡大・Fig. 1)。
Fig. 1 総運動精子数と禁欲期間
すると、無射精期間が長くなると少しずつ人工授精用に調整済みのサンプルの総運動精子数は増えましたが、人工授精による妊娠率は低くなったのです。
これは、2つのメッセージがあります。
①人工授精の時には禁欲は2日以下で良い。
つまり排卵誘発するために人工授精の30-36時間前にhCGを打つのですが、その後に射精(セックス)しても良いと言うことです。
②精子力は数だけでは評価できない。見かけの数は増えても、妊娠にはつながりません。
これからは、溜めないで精子力増強です!